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「日本語」「時制」「条件」「仮定」
切符を買う (未来) → 電車に乗る (未来)
両方とも「現在形」
切符を買って (から) 、電車に乗る。
※ 「から」は省略できる。
=電車に乗る前に、切符を買う。
両方とも、「現在形 (辞書形) 」または「テ形」。
この記事では「テ形」も「現在形」にふくめます。
日本語では「未来形」はありません。
しいていうなら「現在形」とおなじです。
文脈からこれは未来形、未来のことと判断できます。
話者はまだ、切符も買ってないし、電車にも乗っていません。
自分の意思、予定を話しているにすぎません。
切符を買った (過去) → 電車に乗った (過去)
切符を買った。それから、電車に乗った。
→
切符を買って (から) 、電車に乗った。
=電車に乗る前に、切符を買った。
よくある外国人のまちがい
× 切符を買った (から) 、電車に乗った。
× 電車に乗った前に、切符を買った。
両方とも過去のことなので過去形 (タ形) にしてしまうけど、まちがいです。
つぎの例もよくあります。
× 日本に来た前に、日本語を勉強した。
→
○ 日本に来る前に、日本語を勉強した。
前半を「副詞節」、後半を「主文 (主節) 」と考える
副詞節の中は現在形
「、」の前の文章を「副詞節」と考えると、現在のことでも、過去のことでも「現在形」「テ形」をつかうことがわかります。
文脈から「切符を買う」のはかならず「電車に乗る」前なので、副詞節の中が「現在形」でも過去のことだとわかります。
前後を入れかえた例文でも、主文が過去形なら前半の「副詞節」も過去のことです。
話者は電車に乗ったが、それから降りたか、まだ乗っているかはわからない
「電車に乗った」の例文では、いま電車に乗っているところかもしれないし、もう降りたかもしれません。
これはこの文章だけではわかりません。
たとえばこの話者が駅から出てきてあなたに言ったのなら、もう降りていますね。
メールなら、まだ電車の中かもしれません。
もし実況中継しているなら、「テイル形」をつかいます。
「切符を買って (から) 、今、電車に乗っているところです」
寝坊して会社から電話がかかってきたときは
「今、家を出ました」というより、
「今、そちらに向かっているところです」
といったほうが聞こえがいいですね。
このほうが「現在進行中」であることをアピールできます。
条件・仮定節 (未来)
条件節の場合は、上の副詞節とちょっと話が変わります。
条件節では、タ形 (過去形) がつかわれる場合があります。
外国人が混乱するところです。
これを読んでる日本のみなさんは誰も知らずに使いこなしています。
と思います。たぶん、きっと。
飲んだら乗るな。
乗るなら飲むな。
この標語に仮定の使いかたが集約されています。
これを読む人は、まだ「飲んでもいない」し、「乗ってもいない」です。
~なら (仮定)
「なら」は断定の助動詞「だ」の仮定形です。
もともとは「ならば」と言っていたのが、仮定を表す接続助詞「ば」が省略されて「なら」になりました。
ここでは「条件」「仮定」はほぼ同じ意味でつかっています。
上の標語は「禁止」を表していますが、平叙文でもおなじです。
そして、すべてまだ起きていない「未来」のことを表しています。
~たら (仮定)
「たら」は過去・完了の助動詞「た」の仮定形で、接続する音によって「だら」にもなります。
もともとは「たらば」と言っていたのが、「ば」が省略されて「たら」になりました。
一昔前の人が聞いたら「近頃の若いもんは!」と顔をしかめていたことでしょう。
「なら」と「たら」のちがいを見てみましょう。
カンタンにいえば、
「なら」→ 未来
「たら」→ 過去
ですが、それだけではなさそうです。
動作の順番
なら
V1 なら V2
この場合、じつは順番が前後逆です。
このような順番です。
V2 → V1
「乗るなら飲むな」なら動作の順番としては
「飲む」→「乗る」ですね。
言いかたを変えればこうです。
「飲んでから」→「乗る」
「乗る (前に) 」←「飲む」
「条件節」←「主文」の場合、
両方とも「現在形」です。
条件節の内容は、これからの「予定」「意思」「可能性」などです。
この例では「これから車に乗る予定がある」「あとで車に乗るつもりだ」という意味合いがあります。
たら
V1 たら V2
この場合、順番はこのままです。
V1 → V2
「飲んだら乗るな」はそのままこうなります。
「飲む」→「乗る」
「飲んでから」→「乗る」
「条件節」→「主文」の場合このようになります。
過去形 (タ形) → 現在形
もちろん「タ形」であっても過去のこと、終わったことではなくて、まだ起きていない「仮定」を表します。
上の「なら」に比べてこちらは「予定」や「意思」よりも、より強い「仮定」「条件」を表します。
「もしも」「万が一」という「心配」「懸念」を表します。
この例では「自分はそのつもりじゃなかったけど、もしも万が一飲んでしまったら!」という懸念があります。
例文
もうすこし例文をあげてみましょう。
「来るなら (来る前に)、電話してね」
「電話する」→「来る」
これは、「電話してから、来る」です。
「駅に着いたら、電話してね」
「着く」→「電話する」
これは、「着いたあとで、電話する」です。
もう1つの例
「乗るなら、切符を買ってください」
「乗る」←「切符を買う」
「切符を買ったら、乗ってください」
「切符を買う」→「乗る」
仮定法過去
日本語では「仮定法過去」とはいいませんが、英語の仮定法過去とおなじように「懸念」「無念」「悔しさ」などを表します。
英語の仮定法過去で有名な文があります。
If I were a bird. (鳥だったらなあ)
これは「鳥なら飛べるのに」とも言えます。ちょっと違和感がありますが。
「鳥だったら飛べるのに」というと「仮定」「希望と相反する現実に対する悔しさ」が盛り込まれます。
「鳥だったら飛べたのに」は日本語としては不自然で、英語を直訳したために出てきた表現でしょう。
英語の時制の一致に毒されています。
最近はおじさんが店に行かなくなったから聞かなくなったのか、「よろしかったですか?」と過去形をつかうと丁寧というような風潮もあります。した?
恋人に電話でこういいます。
「羽があったら、いますぐ君のところへ飛んでいくのに」
英語の仮定法過去では、「現実にはそうではなかったこと、現実に相反することを仮定する場合」につかうとされていますが、人間の考えることや感覚は言語がちがってもおなじような気がします。
Tears in Heaven
Would you know my name, if I saw you in heaven?
もし天国で会ったら、君は僕の名前を知っているだろうか?
エリック・クラプトンの有名な歌です。
will は「未来」を表しているのではなく、「推測・想像」などを表しています。
日本語の「だろうか?」に相当します。
そして、典型的な仮定法過去の例で、see は過去形 saw になり、will も would になります。
いわゆる時制の一致というやつですね。
だから英語圏の人はこれを、
「会ったら、知っていた×だろうか?」と訳してしまいます。
日本語の文章を作るときも「日本に来た×前に、勉強した」と言ってしまいます。
これが日本語を勉強するときの1つのネックになります。
反対にわたしたち日本人が英語を勉強するときも、おなじようにそこがネックになるんですが。
単純な仮定と、懸念する仮定
明日、雨が降ったら運動会は中止です
これは何度も引き合いに出していますが、明日のことなのに「降ったら」です。
ここまで読んだ方にはもう説明するまでもないと思います。
名詞の場合
単純な仮定
明日、雨なら運動会は中止です。
懸念する仮定
明日、雨だったら運動会は中止です。
2とおりの言いかたがありますが、上の「なら」はふつうつかいません。
それは「運動会の日に雨が降ることは憂うるべきこと」だからです。
「心配だなあ」「雨降ったら嫌だなあ」という気持ちが、下の「だったら」のほうをつかわせます。
「なら」が断定の助動詞「だ」の仮定形であるのに対して、
「だったら」は同じ断定の助動詞「だ」の過去形 (タ形) 「だった」の仮定形です。
名詞の後ろなので「なら」をつけてもあまり時制を感じさせませんが、「降るなら」と言わないように、「雨なら」もちょっと不自然な感じがします。
「鳥なら飛べるのに」に違和感があるのもおなじ理由です。
期待して待ち望む仮定も
どうもおじさん否定的になってしまいましたが、「たら」はかならずしも「悪いこと」ばかりではありません。
「サンタさんが来たらうれしいな」
「あの子がバレンタインのチョコをくれたらいいな」
とか、もっと単純に
「もし手が空いてたら手伝ってくれる?」
「明日、暇だったらどこか遊びに行かない?」
のような使いかたもします。
後者の例では「懸念」や「期待」ではなく、相手に対する「遠慮」「婉曲表現」ですね。
「手が空いている」のも「暇」なのも相手の都合なので、
もしそれを「手が空いているなら」とか「暇なら」というと、相手の状態をこちらで断定しているような雰囲気を醸し出します。
「手が空いてる (ん) なら手伝ってよ!」
というと、見た目で「こいつは暇だな」「手が空いてるな」と決めつけています。
相手はこう答えるでしょう。
「暇じゃねえよ!」
「空いてるんだったら」もダメですね。
これも文法的には「仮定」だけど、かなり決めつけています。
「ん (の) 」はモダリティの「の」で、話者の気持ちが強くはいります。
「もし手が空いてたら~してくれる?」
といえば、
「しょうがねえなあ。やってやるよ」
という返事がもらえるかもしれません😋
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