「そのとき」「あのとき」「こそあど言葉」はじめに
日本人は悩みませんが外国人に日本語を教えていると、かれらはよくこう言います。
「20歳の頃大学に通っていました。あのころ彼女に会いました」
「家でご飯を食べていました。あのとき地震が起きました」
これは辞書を引いて
this この、これ
that あの、あれ
という直訳です。
日本人なら「その頃」「その時」をつかいますね。
「その」に対する英語はないの?
じつはないんです。
日本語の「その」はthatにふくまれます。
あるいは定冠詞のthe、または代名詞のit。
「その時」を辞書で調べると at that time, in those days
しかし「あの時」を調べてもおなじ結果です😄
これは文字で説明するより絵で書くと一発でわかります。
守備範囲
境目ははっきりしていない
厳密に自分から半径何メートルということではなくてだいたいです。
人によっても、状況によっても使う言葉は変わります。
それは相手に近いものを指すことが多いけど、自分と相手のちょうど中間ぐらいにあるものも指します。
共有部分があるので、前述の話の内容や物事をそれで言うことがとても多いです。
あれは両者から離れたところだけど、これも、これ、それとの境目ははっきりしていません。
だいたいです。
「それ取って」
「あんたのほうが近いでしょ💢」
なんて会話もあるわけです。
こそあど言葉
一覧と使いかた
こ 近称。此。是。
そ 中称。其。夫。
あ 遠称。
ど 不定称 (疑問)
これ、それ、あれ、どれ? (本などの) 指示代名詞
この、その、あの、どの? この本。連体詞 (名詞を修飾する)
ここ、そこ、あそこ、どこ? ここにある。場所を示す指示代名詞。
こちら、そちら、あちら、どちら? こちらへどうぞ。こちらの方 (かた) 。指示代名詞。
こっち、そっち、あっち、どっち? こっちに来て。こっちのほうがいい。「こち」の音変化したもの。指示代名詞。
こんな、そんな、あんな、どんな? こんな本要らない。こんなにたくさん読めないよ。
こう、そう、ああ、どう? こう、人が多くちゃ中にはいれないよ。そう、遠くないよ。副詞。
こなた、そなた、あなた、どなた? あなたはどう思いますか?どなたですか?指示代名詞。
こなた、そなたは時代劇でしか出てきませんね。
こんな
辞書には形容動詞 / ナ形容詞とあるが、「こんなだ」とか「こんなな」とかふつうは使わない。
「こんな本」のように連体詞として使うのがふつう。
こう。斯く (かく) のウ音便。
そう。然 (さ) の音変化。
現代では「こんな」「そんな」を使うほうがふつう。
こんなに人が多くちゃ中にはいれないよ。
そんなに遠くないよ。
あなた
彼方と書いて「あなた」とも「かなた」とも読み、ほんらい「遠くのあっちの方 (ほう) 」という意味です。
相手を直接指さしたり名指ししたりするのは失礼だという感覚は世界中にあり、2人称を「あっちの方 (ほう) の (人) 」という言いかたをするようになったのです。
時代劇では「そなた」「そち」「その方 (ほう) 」とも言いますね。
また「こなた」はそもそも1人称なのに、2人称、3人称としても使います😮
もう訳わかりません。
相手のことを「己 (おのれ=自分) 」とか「手前 (てまえ→てめえ=やっぱり自分) 」とか言うのも同様です。
このへんのことは下にリンクを貼った2人称の記事を読んでください。
物体にも物事・時間にも使える
この本、その机、あの窓のようにもちろん物体に使いますが、手で触れられない、あるいは目に見えない物事にも使います。
この点は英語もおなじですね。
「これはどうするんだ?」
「この件に関しては善処します」
「きのうのニュース見た?」
「そのことなんだけどさ、云々」
「前から頼んでたものどうなった?」
「ああ、あれね…」
「彼女との馴れ初め教えてよ」
「大学に通ってた時、おなじクラブにはいったんだよ。その時、彼女と知り合ってなかよくなったんだ」
外国人はここでよくあの時と言ってしまいますが、その時です。
これは英語のitとおなじように考えればわりあい簡単に使えるようになると思います。
ここでの「その時」は「大学に通っていた時」のことを言っています。
この話者が「大学に通っていた」と言った時点で相手はその情報を共有したので「その」で継ぎます。
そ
とくに外国人がわかりにくい「そ」系の言葉。
これは会話している2人が情報を事前に共有しているものについて使います。
「きのう転んで骨折しちゃってさあ」
「それは大変だね」
「それ」は「転んで骨折したこと」です。
これは英語のitとおなじ感覚です。
「おもしろいニュースがあるんだよ」
「どんな?」
「それはね、カクカクシカジカ」
「このアニメ面白いんだぜ」
「それそれ。知ってる」
最近は「それな」という言葉が流行っているけどおじさんはあまり好きじゃありません。
べつに「昔はよかった」とか「最近の若者は」とかいうことではなくて、テレビやネットで使っている言葉を安易に使う姿勢になんともいえないさもしさ、貧しさを感じてしまうからです。
じっさい最近の若者ではなく老いも若きも使いますからね。
その言葉が好きだとか、面白いとか自分の価値観と判断と意志で使うのなら何も問題ありません。
ただ自分の判断も意志もなく無意識に追従してしまうのはどうなのか?
ま、どうでもええけど。
使用頻度
日本人の使用頻度を少納言で調べてみました。
| 単語 | 検索数 | 単語 | 検索数 |
| このとき | 5532 | このころ | 952 |
| この時 | 8877 | この頃 | 1951※ |
| そのとき | 10244 | そのころ | 1877 |
| その時 | 9947 | その頃 | 2117 |
| あのとき | 1734 | あのころ | 435 |
| あの時 | 1639 | あの頃 | 707 |
「その」の圧倒的勝利
日本人がいかに「その」を使っているかが一目瞭然です。
そして「あの」はとても出番がすくないです。
この頃※
これが厄介です。
これには2通りの読みかたと意味があります。
こ/のこ\ろ
「過去の一点」を表します。
このころは毎晩塾に通っていました。
ただし、日本人は「このころ」はほとんど使いません。
ふつうは「そのころ」と言います。
こ/のごろ
「最近」という意味です。
このごろは何もかも物価が高くなってやれんわ。
検索数が1951と、「そのころ」と張り合っているように見えますが、じつはそのほとんどが「このごろ (最近) 」という読みかたと意味で使われているものです。
使われかた
「このごろ」は最近という意味ですが「当時」という意味で使う「このころ」はどんなときに使うのでしょうか。
物語・小説
ほとんど物語や小説です。
「このころ (当時) 彼は大学に通っていました。そこで彼女と運命的な出会いをしました」
会話ではふつう「そのころ」を使います。
「このころ」を使う理由
「そのころ」より、より当時の視点に近いところで話をしているニュアンスがあります。
過去のことなのにあたかも自分が今、過去のその瞬間・現場にいるかのようなニュアンスです。
だから物語や小説に使うんですね。
漢字かひらがなか
これはおじさんが文字を書いていていまだに解決しない問題です。
「使う」と「つかう」が混在していますがその表れです。
適当に使っているのではなくて、文章の前後のバランスから漢字にするかひらがなにするか変えているんだけどきちんとしルールがあるわけでもありません。
おそらく読んでいる人はだれも気にしていないでしょう😄
漢字は一目で意味がわかる反面、主張が強い。
「使う」にあまり重要性がないと思ったときは「つかう」を使います (ややこしや~)
また文章が全体的にひらがなだらけになったときは読みにくいので漢字にしてやります。
ここで単語が切れてるぞと教えてあげるためです。
だからおじさんは「その時」より「そのとき」を使います。
少納言の検索結果では両者にあまり大きな差異はありませんね。
副詞に漢字をつかうとうるさくなります。
「この時」や「この頃」。
これは「このとき」「このころ」で軽く流しておけばいい。
じつのところ「このとき」も「このころ」もまず使うことはありませんが。
その時 vs あの時
お待たせしました。
「そ」は中称。
「あ」は遠称。
さあ本題です。
ここまで読んだ方はもうわかったかもしれませんね。
例文を出してみましょう。
視点のちがい。あなたの心は今どこにある?
そ。視点は出来事が起きた過去にある。
「きのう大きな地震があったね」
「ああびっくりしたあ。その時はちょうど学食で昼飯食ってんだよ」
この人は、今は自宅や友達の家にいるかもしれないけど、地震が起きた瞬間のことが頭に浮かび、学食にいた自分に心が飛んでいます。
今、ここで地震が起きてそれを実況中継しているような感じです。
また、「そ」はただ無機質に前述の事柄を省略してまとめているだけで機械的に相手に説明している感じもあります。
あ。視点は現在にあり、遠い過去を特別な感情とともに思い出している。
「昔はよく2人でバイクツーリングに行ったよな」
「あの頃はほんとに楽しかったな」
心は今ここにあり、遠い過去を遠くから眺めている感じです。
遠い目線
「あ」を使ったときは
「もうけっして戻らない過去」
「懐かしむとともに、もう戻らないということに対して寂しさも感じている」
「今とはもう関係ないこと」
このように過去の出来事から遠く離れた現在で、その出来事を遠くから眺めているニュアンスです。
後悔の念など、ただの叙述ではなく自分の感情や思い入れが強いことに使います。
「大学生のときはちゃらんぽらんで遊びまくってたんだ。あの時 / あの頃もっと勉強していれば…」
これはやはり今さら戻れない、触れられない過去。
そしてただの思い出ではなく、強い後悔の念があります。
おじさんはプールで好きな女の子を見かけたことがあります。
千載一遇のチャンス。
「あのとき声をかけておけばなあ…」
時と頃
時:短い時間範囲
頃:長い時間範囲。またははっきり特定できないか、知っていてもあえてはっきり言いたくない場合。だいたいそのへんね。
たとえば
7時に会いましょう。 (7時きっかりに)
7時頃会いましょう。 (だいたい7時ね。6時50分かもしれないし、7時10分かもしれないしもちっと遅いかもしれない)
少納言 (現代日本語書き言葉均衡コーパス)
これはとても便利です。
あくまで書き言葉なので会話になると使用頻度は変わりますが目安にはなります。
中納言というものもあり、こちらは登録すると話し言葉コーパスなどいろんなメニューがつかえます。
無料です。
ありがたや。
漢字とカタカナとひらがなの使い分け ~ 漢字かなまじり文
2人称 ~ できるだけ相手を名指ししない、指差さない
やまとことば ~ 一覧
わたしは日本語教師をしています
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表示名はToshiです。
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