「音位転換」バサーとおたそう
何のことだかわからないですね。
これはじっさいおじさんが子どもの頃よくまちがえた言葉の組み合わせです。
バターとお砂糖 (おさとう)
が
バサーとおたそう。
しょっちゅう間違えていたので60過ぎた今でも覚えています。
これはかなり高度な音位転換です。
バターのタとお砂糖のサが入れ替わるだけなら序の口だけど、お砂糖のサトがタソになっています。
ここで面白いのは単に前後の音が入れ替わったのではなく、母音はそのままに子音だけが入れ替わっていることです。
そしてまったくでたらめな音ではなくもともとあった子音をちゃんと使っています。
ほかにも
ミンゴとリカンなんてのもありました。
リンゴとミカンです🍎🍊
これはおなじイ段の音で入れ替わっただけなのでかわいいほうです。
このようなことを音位転換と言います。
英語ではmetathesis [mətǽθəsis]。
しいてカタカナで書くならムタサシス。
いきなり高度な例を出しましたが、このように音が入れ替わるのは個人だけでなく言語全体で起こってそれが定着してしまったものがあります。
日本語の例
サンサカ→サンザカ→サザンカ
山茶花という漢字を見ればこのようなことは起きないのですが、むかしの人はほとんど字が読めなかったので会話の音声だけでこの言葉を聞きます。
だから音が入れ替わってもそれがまちがいだとは気づきません。
そしていつしか言いやすいほうが市民権を得て、元祖は駆逐されてしまいます。
日本語のピッチアクセント (高低アクセント) の影響
日本語の高低アクセントには語頭 (1番目) と2番目の高さはかならず変わるという規則があります。
「サンサカ」という言葉はすでにないので本来のアクセントはわからないんだけど、「散策 (サンサク) 」から類推すると
サ/ンサカ という平板型が自然だと思います。
似た音の言葉に「三角 (サンカク) 」があります。
こちらは
サ\ンカク という頭高型ですね。
サンサカが頭高型だったらこの音位転換は起こらなかったかもしれません。
「ン」にアクセントはつけにくい。「ン」が2番目で尾高型・平板型では音位転換が起きやすい
問題は2番目に「ン」の音があることで、頭高型なら何も問題ないんだけど、尾高型や平板型だと「ン」にアクセントが来るので発音しにくいんです。
※ 厳密には2番目はアクセントではないんだけど、尻上がりになる最初の音なので意識して強く発音しなければなりません。
世界的に見ても「ン」で始まる言葉は稀です。
ヨーロッパの言葉にはないでしょう。
アフリカではンゴロンゴロ保全地域 (Ngorongoro Conservation Area) なんてえのがありますがこれは世界的にはやはり少数派です。
日本人でもたまに「ん?」ていう返事をするときがありますがこれもかなり特殊です。
じっさいには「ん?」ではなく「む?」です。
口を開けないままなので赤ちゃんが最初に出す音です😄
母音はありません。
この「ン (n) 」は1拍の長さを持っているんだけど鼻音なので音が弱く曖昧です。
「ン」にアクセントは入れにくいんです。
そこで後ろの「サ」または「ザ」が前にしゃしゃり出てきてアクセント権を取ってしまったんです。
繰り返しますが、むかしの人がみんな漢字が読めて山茶花をそのとおりに読んだらこの音位転換は起こらなかったかもしれません。
「山 (サン) 」という認識があったら。
漢語の熟語では2番目に「ン」が来る言葉がたくさんあります。
関係、反対、混乱、散策などなど枚挙に暇がない。
ではこれらの言葉ではなぜ音位転換が起こらなかったのでしょうか?
文章語、文字でしか見ない言葉は音位転換が起きない
こういった漢語は日常会話ではあまり使いません。
固い言葉で、文章語、あるいは偉そうな😄人が偉そうにしゃべるときに使う。
音声で聞くより文字で読むことのほうが多い。
またそれぞれの漢字が独立して意味と音を持っている認識があります。
こういったことから音位転換が起きなかったのでしょう。
言葉がもともと持っている意味と音が認識されているものは音位転換が起きない
また三角のように頭高型で「3 (サン) 」という認識が高い言葉は音位転換はまず起きません。
サンサカのようにどんな字だか、どんな意味だかわからずただ音として聞く場合は音位転換が起きやすいです。
山茶花のアクセントは
サ/ザ\ンカ と中高型で「ザ」にアクセントがあり後ろの「ン」は下がっているのでアクセントとして自然な流れで発音しやすく気持ちいいですね。
これがもし サザ/ン\カ だったらとても発音しにくいです😄
もちろん日本語では1番目と2番目の音程はかならず変わるという規則があるのでこの発音はありえません。
Japanese beat and pitch accent 日本語の拍と高低アクセント (日本語)
鼓 (ツヅミ→ヅツミ)
舌鼓 (シタツヅミ→シタヅツミ)
腹鼓 (ハラツヅミ→ハラヅツミ)
この言葉は2つとも「舌」「腹」に「鼓」がくっついた言葉です。
おそらく会話でも「舌」「腹」という言葉の認識はあると思います。
問題はその後ろの「ツヅミ / ヅツミ」ですね。
鼓 (ツヅミ) という漢字と発音を認識している人ほとんどいない
これが「鼓」つまり太鼓のような打楽器として認識している人はほとんどいません。
じっさいおじさんも子どもの頃はこの言葉を聞いて「包み」を連想しました。
「鼓」といえばふつうは肩に乗せて叩く「小鼓 (コツヅミ) 」を指します。
「包み」は意味としては変ですよ。
でもふつうの人の辞書に「鼓 (ツヅミ) 」という文字と音はないんです。
包みを連想する。そして連濁だと思い込む
そうすると「包む (ツツム) 」「包み (ツツミ) 」という言葉と音はもちろん、連濁して「小包 (コヅツミ) 」という言葉などが頭に浮かびます。
ああややこしや~。
この時点でまちがう確率はかなり高くなります。
後ろの謎の「ツツミ (ほんとはツヅミなんだけど) 」の頭が連濁して「ヅ」になるのが自然です。
そして「シタヅツミ」「ハラヅツミ」が市民権を得たわけです。
識字率100%の現代の大人でも後ろの言葉が「鼓 (ツヅミ) 」だと認識している人はほとんどいないと思います。
もし認識していれば「ヅツミ」ではなく「ツヅミ」と読むでしょうから。
秋葉原
秋葉原 (アキバハラ→アキハバラ)
これは難題です。
よくアキバハラが言いにくいからという人が言いますがじゃあ秋葉山 (アキバサン) は言いにくいですか?
もともと秋葉山 (アキバサン) 、秋晴れ (アキバレ) 、秋場所 (アキバショ) 、などがあります。
秋葉山は連濁ではないですね。「葉 (ハ) 」が「バ」に変わっています。
秋晴れは連濁。
秋場所はもともと「場 (バ) 」です。
とくに秋葉山と秋葉原は秋葉の部分はまったくおなじで後ろに山か原がついただけのちがいです。
高低アクセントもまったくおなじ。
秋葉山
アクセントは
ア/キバ\サン
中高型。
「バ」にアクセントの滝があり、その後ろが「サ」なので自然な流れ。
何も問題ありません。
秋葉原
こちらも
ア/キバ\ハラ
で秋葉山とまったくおなじです。
「バ」にアクセントの滝があるので、むしろこれを弱い無声子音の「ハ」に変えるのはかえって発音しにくく無理があります。
それでもこれを「ハ」に変えた、いや変わった理由は何でしょうか?
たまたま前後がおなじハ行の清音と濁音だったから
1つ目の理由はこれです。
秋葉山の場合は「バ」と「サ」のなので入れ替わらないですね。
絶対ないとは言えません。
おじさんは「バサーとおたそう」と言っていたのだから😄
「バ」にアクセントがあり、後ろは「山 (サン) 」という認識がしっかりしていたから変わる要因はほぼなかったでしょう。
しかし秋葉原は「バハ」とおなじハ行の清音と濁音が続いています。
これはもともと入れ替わる可能性が高いです。
でもこれだけでは入れ替わりません。
連続する音では後ろが濁ることが多いから
幅 (ハバ) 、阻む (ハバム) 、響く (ヒビク) 、吹雪 (フブキ) 、ヘベレケ、ほぼ
のようにハ行だけでも2番目が濁るものが多いです。
というか逆のパターンがあったら教えてください。
ほかの行でも
鈴 (スズ) 、只 (タダ) 、縮む (チヂム) 、続く (ツヅク) 、留める (トドメル) のように後ろが濁るものが多いです。
画家 (ガカ) 、地震 (ジシン) 、是正 (ゼセイ) のように前が濁るものもありますがご覧のとおり漢語で文字の認識がしっかりしていたり、文字で見るほうが多い言葉です。
無声化したほうが楽だから
さあおじさんの真骨頂はここからです。
アキバハラというもともとの発音では無声化しません。
しかし、アキハバラだと「キ」が無声化します。
※ 個人差があります😄
喉に手を当ててアキバハラとアキハバラを交互に言って「キ」のときに喉が振動する (声帯が振動する) かどうかやってみてください。
人類怠け者の法則🦥で、人は易きに流れます。
どうせなら無声化した「キ」のあとに無声音の「ハ (h) 」を続けたほうが楽でしょ。
認知度。音で聞いたか文字で見たか?
ただおなじことは秋葉山にも言えるんだけど、やはり秋葉山は「山 (サン) 」の主張が強くて変わらなかったんでしょう。
また秋葉山 (アキバサン) のほうが音として認識されていて、秋葉原は音より文字ではじめてその存在を知った人が多いからではないでしょうか?
つまりもともとの読みかたと音を知っている人のほうがすくなかった。
読みかたがわからないとき人は自分が知っている言葉をもとに発音します。
するとやはり連続する音では後ろが濁ることが多い、つまり幅 (ハバ) 、阻む (ハバム) などからの類推でアキハバラになったのではないでしょうか。
原の読みかた
とここまで書きながら、じつは原の読みかたは「ハラ」と濁らないほうが多いんです😄
上原 (ウエハラ) 、中原 (ナカハラ) 、野原 (ノハラ) 、大原 (オオハラ) などなど。
逆に「バラ」と読む地名・人名を探すほうがむずかしいです。
松原 (マツバラ) 、米原 (マイバラ) など。
南の方では「バル」という読みかたをするところが多い傾向があります。
前原 (マエバル) 、春日原 (カスガバル) 、西都原 (サイトバル) 、山原 (ヤンバル) など。
小田原 (オダワラ) 、大田原 (オオタワラ) のように「ワラ」と読むこともあります。
新しい「あたらしい」「あらたしい」~ どっちが正しい?
むすび
しかしこうして見ると音位転換した言葉はあまり多くないことがわかります。
新た (あらた) と新しい (あたらしい) は単なる音位転換ではなく、もともと「あたら」というべつの言葉があったのが原因です。
これも音位転換にふくめるのであればその例ということになりますが。
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