「フガフガ」「音声学」「鼻音化」年寄りの声がフガフガ聞こえる
年寄りの言葉は聞き取りにくい。
地方によっては方言や訛りのせいもある。
しかし、音声学的な理由がある。
よく歯が抜けているからと思われるが歯ではなく舌と口蓋帆の問題である。
音声学的解析
舌の動きが鈍る→すべての音声が曖昧になる
そもそも言語としての音はたくさんあるがどうやって音を変えているのか?
口 (唇) の形で変えていると思われているが、じっさいは舌の位置と形で音を変えている。
だから腹話術師は口を動かさずに音を変えられる。
また腹話術師ではないのにほとんど口を動かさずにしゃべる人がいる。
とくに女性が多い。
あいうえお
あかさたなはまやらわ
すべて舌の成せる技である。
呂律が回らない
酔っ払って発音が曖昧になるのも舌の動きが鈍くなるからである。
呂旋法 (りょせんぽう) 、律旋法 (りつせんぽう) は日本の古い旋法 (音階) のこと。
「ろれつ」は「りょりつ」の音変化したもの。
舌足らずという表現も言い得て妙で、舌の動きがしっかりしていない人の発音は曖昧で聞き取りにくい。
滑舌がいい / 悪いという表現もこれまた絶妙で、音は舌が作っている。
母音でも子音でも調音点と調音法があり、舌がしっかり動かないと音を変えることができない。
とくに破裂音・摩擦音・破擦音が消える
s, t, r, z, d (サ、タ、ラ、ザ、ダ行)
ただし両唇音と軟口蓋音・口蓋垂音は残る (後述)
声門音hに
そしてすべての子音は舌をつかわない声門音h (ハ行) で代用する。
口蓋帆の動きが鈍る→鼻音化
口蓋帆
鏡を見て見える喉の入口、いわゆるのどちんこ (口蓋垂) がぶら下がっているところの膜。
図では矢印が通っているところ。
ふだんの呼吸や鼻音
人はふだん呼吸しているときは鼻呼吸で口蓋帆は下がっていて肺から出た空気は鼻から外へ出る。
もちろん吸い込むときも鼻から吸い込んで喉を通って肺にはいる。
また声門 (声帯の隙間) は開かれていて空気は通りやすくなっている。
鼻音以外の音声を発するとき口蓋帆は上がって鼻への通り道をふさぐ
しかし言語を発するときは声門を閉じて声帯を振動させる (有声音の場合) 。
また口蓋帆を上げて鼻への通り道を遮断して口から空気が出るようにする。
しかし、筋力の衰えなのか神経の衰えなのか、口蓋帆がしっかり上がらないと空気は鼻から抜けてしまう。
舌で音を変えているのに鼻から空気が出てしまうと舌の位置や形は関係なくなってしまう。
ただ、鼻から抜ける音になってしまう。
これもまた年寄りでなくても鼻にかかった声という人は鼻から空気が漏れている。
多少なら甘ったるい声質になる。
ZARDの坂井泉水さんのような声。
おじさんは歌うとき、わざとそういう声を出すこともある。
ちなみにおじさんは女性の鼻音が好きだ。
とくに高音を出すときは、鼻から空気を抜いたほうがきれいに通る。
両唇音は残る
舌ではなく唇でつくる両唇音は残る。
p, b, m (パ、バ、マ行) だ。
腹話術師が出せない音でもある。
ぜったい唇を閉じないと出せない音なので。
いっこく堂さんが言っていた。
(しかし、かれは抜け道を発見した。企業秘密)
もちろん唇の力と動きも弱くなればこれも曖昧になる。
p, bは口から出す音なので唇の閉鎖と破裂が弱ければそれぞれ[ɸ (ファ)], [β (ワ)]に化ける。
じつは日本人は唇を閉じるのがめんどくさくなって年寄りでなくてもこの音に変わり、さらに別の音に変わってしまった音がある。
それは現代のハ行。
やまとことば~ハ行転呼音。パピプペポだった!?
赤ちゃん
p, b (パ、バ行) はしっかり破裂させないで鼻に抜けてしまうとm (マ行) になってしまう。
赤ん坊はまだ口蓋帆を上げて鼻への通り道を塞ぐことを知らないので最初に出る音は口を閉じたまま出すm (マ行) になる。
最初に出る音が「ママ」になるけど、べつにママが好きなのでもなく、食べもののことでもない。
ただその音がいちばんかんたんに出る音というだけだ。
それを世界中の母親は「私のことだ!」と勘違いしているんだね😄
日本では「ご飯」の意味に捉えられている。
日本の母は謙虚なんだね。
ちなみに鼻が詰まると鼻から抜けないのでm (マ行) はb (バ行) に、n (ナ行) はd (ダ行) に化ける。
鼻が詰まった
はながつまった→はだがつばった
鼻を摘んで言ってみるとわかる。
そして声帯振動を伴う有声音のままだと、
「mama (ママ) 」のつぎは「papa (パパ) 」ではなく「baba (ババ) 」である。
パパの立場は弱いのである😄
トルコ語でお父さんは「ババ」である。
さらに「jiji (ジジ) 」は高難度の発音なので日本中の「ジージ (爺) 」たちよ、嘆くなかれ。
喃語
「ああうう」という母音も最初は鼻から抜ける鼻音である。
中国人は日本語のp (パ行) をしっかり破裂させないのと、有声音と無声音の区別がないのでb (バ行) に化けることがある。
例:心配 しんぱい→しんばい
軟口蓋音・口蓋垂音も残る
日本語の「ん」は5種類ある。
歯茎音の「ん」は消えるが、後舌 (喉の入口で出す音) の[ŋ][ɴ]で代用する。
また子音のk, g (カ、ガ行) も残る。
これもさらに舌の動きが鈍れば消える。
むすび
フガフガというのも言い得て妙で、h, g (ハ、ガ行) だけが聞こえることをじつによく表している。
この点を理解して聞くと、今まで50%だったのが70%ぐらい聞き取れるようになる。
またあなたが年取ったら、あるいはすでに年寄りなら舌を動かして口から息を出すことを意識すると聞き取りやすい音になる。
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