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「マニタス・デ・プラタ」「アルル」「コロッセオ」
アルル
おじさんはヨーロッパ旅行も終わりに近づき、フランスのアルルにやってきました。
アルルといえば「アルルの女」でしか知りません。
散策をはじめるとあちらこちらに、あるポスターが貼られていておじさんは立ち止まりました。
なぜなら
Manitas de Plata
と書かれていたからです!
マニタス・デ・プラタといえばフラメンコ界で知らない人はいない。
日本で最近はやった「レジェンド」です!
しかも
ポスターにはこう書いてありました。
Légende Vivante
さらに
1゜er Juin 02
おじさんはスペイン語を勉強していたので、だいたい意味が想像できました。
ロマンス語 (英語とラテン語の関係)その1~ノルマン・コンクエスト
legendeは英語のlegendとおなじ。
まさしくレジェンド。
伝説。
vivanteは「生きている」というような意味です。
じっさいあとでフランス語の辞書を調べたらそういう意味でした。
スペイン語で生きるは「vivir」
みなさんよくご存知の「ビバ (万歳) !」は「Viva!」で「生きろ!」あるいは「生きていること」というような意味です。
英語のsurviveやreviveの「vive」は「live」の意味です。
つまり
「生きている伝説」
どうやらマニタス・デ・プラタのコンサートのポスターのようです。
生きている伝説
でも、ちょっと気になったのは「生きている伝説」という文句。
おじさんがマニタス・デ・プラタを聞いたのは相当むかしです。
これは、すでにこの世にいない伝説の人にまつわる「追悼コンサート」なのではないか?
日付
もう1つの問題は日付です。
1゜er Juin 02
と書いてありました。
たしかおじさんの記憶では「゜」がついていたと思うんですが。
1゜erはなんのことかわかりません。
Juinは英語のJuneであろうことは想像できました。
ということは「6月2日」?
残念なことにおじさんは今夜6月1日にフランスのアルルに泊まって、明日6月2日にはドイツのフランクフルトに移動しなければならないんです。
6月3日にはフランクフルトから日本に帰る便が決まっていたので、もう1日アルル滞在を延ばすことができなかったんです。
観光案内所
ダメ元で観光案内所に行きました。
そして、マニタス・デ・プラタのポスターについて聞きました。
「マニタス・デ・プラタのコンサート。6月2日。明日の晩ですよね?😭」
「今晩ですよ」
「えっ?…今晩?」
「はい」
「今晩て6月1日?今日?」
「そうですよ」
「でも、ここに6月2日って書いてある」
「いいえ、これは6月1日です」
おじさんはよくわからないけど、今晩らしいことを知り、チケットを買いました。
空席があったのも幸いです。
しかも、泊まっているホテルのすぐちかくのコロッセオ (コロッセウム。コロシアム。円形闘技場) 、野外音楽堂です。
歩いて行けるところです。
こんな偶然があっていいんでしょうか?
聞いてみるもんだ
もし聞いてなかったらかってに諦めて、ホテルのすぐちかくの千載一遇のコンサートを見逃しているところでした。
ダメ元でも聞いてみるもんですね。
1erはpremierの略
いわゆるプレミアとおなじ語源です。
フランス語では「プルミェ」
英語ではprimary。
「最初の」という意味です。
1erは1日のこと
フランスでは月の初めの「1日」を「premier」といい、「1er」と書きます。
日本でも、「1日」は「いちにち」といわず、「ついたち」と奇妙ないいかたをしますね。
外国人が日本語を習うとき、なんで「1日」だけ「ついたち」なんていいかたするの?と思うはずです。
「月立ち」が語源だということは日本人でもあまり知りません。
だって当たりまえなんだもん。
「いちにち」だと長さとしての「1日」と混同するために、日付のほうを「ついたち」というようになったのかもしれません。
ちなみにマニタス・デ・プラタは2014年に93歳で亡くなっています。
とするとこのとき2002年では80歳でした😮
マニタス・デ・プラタ
フランスのジプシー。
有名なジプシー・キングスのメンバーのおじさんに当たります。
この人は独特のリズムを持っていて、フラメンコの12拍のコンパスを外すことがあります。
でも、それはもちろん承知の上です。
かのニーニョ・リカルドも12拍でないところが、たまに出てきますがあくまでソロで効果を狙ってであって、かれらがコンパスを理解していないわけではありません。
踊りの伴奏をするときはしっかり12拍のコンパスを刻むはずです。
ありますよね。
クラシックでも、ポピュラーでも、4拍子のところに2拍の不完全小節を入れたり、歌の繰り返しで2回めはあえて休符を1つ減らしたり、あるいは足したりして、変化を持たせることが。
フラメンコをちょっとかじった人の間では「マニタス・デ・プラタはフラメンコじゃない」というのが、フラメンコの通であるかのような風潮がありますが、そんな人にかぎって12拍のコンパスは身についてません。
ネットや物の本に書いてあることをただ受け売りしてるにすぎません。
ジプシーというとスペイン+ギターを想像すると思うけど、フランスにもいるし、ドイツではバイオリンをつかいます。
かの有名なジプシー・キングスもフランス人です!
なのでかれらのスペイン語はフランス訛りあるいはジプシー訛りです。
cielo (シエロ) を「ツィエロ」と発音するところなど、フランスというより、ドイツ訛りとも思えますが。
もともとスペイン語がアイウエオの5音で日本語に似ているところをもって、さらにフランス語訛りなので、空耳で日本語に聞こえたりします。
No te vayaが「あんたが~た」ですからね😄
Tú no me dejaが「車ないか~」ですよ。
ビゼーのチゴイネルワイゼンという曲がありますが、ドイツ語でツィゴイナー (Zigeuner)は「ジプシーの」ワイゼン (Weisen ヴァイゼン) は「旋律」です。
コンサート本番
おじさんは心躍らせるとともに一抹の不安を抱えてコロッセオにやってまいりました。
夜の7時くらいです。
ほんとに「生きてる」マニタス・デ・プラタが来るのか?
それとも「追悼コンサート」なのか?
ポスターにもチケットにも、マニタス・デ・プラタの写真 (と勝手に思いこんでるだけかも) と名前がデカデカと乗ってるのはまちがいありません。
挨拶
ヨーロッパでもこういうのあるんだな。
よくわからないけど、音楽の関係者か、地域の主要人物か、はたまた役場の人間か、5~6人出てきて、順番に挨拶します。
要りません。
おじさんは、いや、まちがいなくここに来ているほかのお客さんもマニタス・デ・プラタを見に来たのです。
かれの演奏を聞きに来たのです。
前座
おじさんのまったく知らないフラメンコっぽいグループが出てきて何曲かやりました。
まあ、そこそこですが、おじさんはマニタス・デ・プラタとその演奏が聞きたいのです。
生で見たことは1度もない。
そもそも、まだ生きてるのかどうかもわからない。
生きていたとしても、ここにいるかどうかもわからない。
前座というには長すぎて、ほかのグループもいくつか出てきて9時になってしまいました。
2時間。
もう、これだけでコンサート終わりの時間じゃろ。
やっぱり、マニタス・デ・プラタはいなかった?
足を踏み鳴らす
コロッセオの階段状のところにさらに鉄パイプと木の板で足場がつくってあり、それが観客席です。
まわりの白人たちは足を踏み鳴らしはじめました。
日本人なら手を打つところでしょう。
足を踏み鳴らすのは、スペインの闘牛場でも見ました。
ヨーロッパ人の文化ですね。
マニタス・デ・プラタ登場!
すると、ギターを持ったムッシュかまやつみたいな人が出てきました。
おじさんは大昔のCDを持っているだけで、マニタス・デ・プラタが生きているのか、生きているならいま何歳なのかもわかりません。
そもそも、アルルでポスターを見たのは偶然だから。
どうやらこの白い頭が膨張した人がマニタス・デ・プラタのようです。
演奏開始
演奏がはじまりました。
もう、何のタメもなくいきなり弾きはじめます。
かれ特有のギターをバンバン叩く奏法。
どれだけドラムやパーカッションがはいってるのか?というくらい、和音とリズムとメロディを弾きながら、いろんな打楽器の音を出します。
感激でした!
まさか、こんなところでマニタス・デ・プラタの生演奏を見られるなんて。
しかも、フランス最後の日。
1日でもズレてたら見られませんでした。
早くても、遅くても。
また、6月2日と思いこんでいたら見られませんでした。
観光案内所で聞いてよかった!
1曲で終わり!
そんな感傷も束の間。
かれは1曲弾き終わるとお辞儀をしてさっさと舞台を出ていきました。
アンコール
まわりの白人たちは足を踏み鳴らし、手を叩き、アンコールを叫びます。
ええっ!1曲でアンコール!?
しばらくするとかれは出てきて、椅子に座るとまた何のタメもなくいきなり2曲めを弾きはじめます。
そしてまた、弾き終わるとさっさと舞台をあとにします。
こうして1曲ごとにアンコールでけっきょく5~6曲は弾いたんですかね。
ようやくコンサートは終わり、10時すぎて、ホテルに向かいます。
歩いて10分くらいです。
なんという巡り合わせ!
こうして至福の時を過ごし、床につくのでした。
明日はフランクフルトへ移動。
legend (地図記号)
地図記号の意味
英語のlegendはもちろん「伝説」という意味ですが、「地図記号」という意味もあります。
これはアメリカで見たのですが、喫茶店にはいったら、メニューといっしょに付近の観光地図が置いてありました。
しかも、なぜか英語と日本語で書いてあったのです。
そして、legendの下に「伝説」の文字が。
もちろんこの場合、「地図記号」のことなんですが、辞書を引いていちばん上に書いてあった「伝説」をただ書いたのか、訳した日本人がマヌケだったのかはわかりません。