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「物」「他動詞」「人」「主語」
人を主語にしたい
日本語では物を主語にするのを嫌います。
人を主語にしたい人種です。
以前、「物を主語にする」という記事を書いたんだけど、それは「物+自動詞」の場合です。
これから書くのは「物+他動詞→人」という構図の場合です。
英語は自他の区別がない
しかも英語は1つの動詞で、自動詞と他動詞の両方でつかうものがたくさんあります。
ていうかほとんどそうでしょう。
たとえば drop には「落ちる (自動詞) 」「落とす (他動詞) 」の両方の意味があります。
A towel drops. タオルが落ちる。 (物+自動詞)
I drop a towel. (わたしは) タオルを落とす。 (人+他動詞→物)
このため英語圏の学習者は「落ちる」と「落とす」の区別ができずに、それはもうよくまちがえます。
だって英語はおなじ drop なんだもん。
自動詞と他動詞という概念がありません。
もちろん日本人も文法用語は知らないけど、「落ちる」と「落とす」はべつの言葉として使いわけています。
英語は「物+他動詞→人」が好き
さて、この記事で問題にするのはこれです。
上に自他の区別がないと書きましたが、さらにおなじ他動詞なのに人にも、物にもつかう動詞があります。
日本人からするとこっちのほうがややこしいんだけど。
confuse 混乱する / させる
これはじっさいに生徒が混乱した例です。
英語の confuse は「他動詞」だけです。
しかし、使いかたと意味は2通りあります。
- 人が物を混乱 (混同) する。AとBの区別がつかない
- 物が人を混乱させる。
① 人が物 (人) を
I confused 田中さん with 中田さん.
(わたしは) 田中さんと、中田さんをまちがえた。
=田中さんと中田さんの区別がつかなかった。
② 物 (人) が人を
His explanation confused me.
彼の説明は、わたしを混乱させた。
=I was confused with [by] his explanation.
わたしは彼の説明に混乱させられた。
人を主語にする
①の「人+他動詞→物 (人) 」は問題ありません。
問題になるのは
②の「物+他動詞→人」のパターンです。
日本語は他動詞を嫌う→自動詞をつかう
上に下線を引いたけどダメな翻訳の典型例です。
いちおう文法的にはまちがいではないし、意味もわかります。
でも、日本語ではこういう言いかたをしません。
ふつうはこう言います。
「 (わたしは) 彼の説明に混乱した」
日本語では「物+他動詞→人」という言いかたをしません。
人を前に持ってきて主語にします。
受身もつかいません。
とりわけ「自分 (わたし) 」を主語にする
さらに人でも「あなた」や「彼」ではなく「自分 (わたし) 」を主語にします。
何でも「わたし目線」で話します。
だから主語 (とくに私) を省略するんですね。
言いかたを変えると、「わたし目線」で話し、それに沿った文法構造なので主語 (わたし) を言わなくなったとも言えます。
もう1つ例を。
The map confuses me.
この地図はわたしを混乱させる。×
I am confused with the map.
わたしはこの地図に混乱させられる。×
この地図 (に) は混乱する。△
さらにここでつかわれる「は」は主語ではなく、取り立ての「は」あるいは主題の「は」であるので、外国人は混乱します。
「地図は主語ですか?」と聞きます。
「いいえ。主語はこれを話している人です。混乱するのは人です。『人が混乱する』んです。ただ日本語では『わたしは』と言いません」
もっといえば下の文章がいちばん自然でよくつかわれる言葉です。
この場合、地図は主語です。
この地図はまぎらわしい / わかりにくい。○
さらに confusing が混乱させる💦
これくらいで終わりにしたかったんだけど生徒がさらに引っかかりました。
それがこの2つのちがいです。
It confuses 人.
It is confusing to 人.
上は物が主語。他動詞で、人を混乱させます。
下はおなじく物が主語。ただし confusing は現在進行形ではなく、「形容詞」です。
「まぎらわしい」です。
辞書を引くと「混乱させる」「まぎらわしい」「わかりにくい」と書いてあります。
日本語では動詞の「辞書形」とおなじ形の「連体形」が形容詞とおなじ働きをします。
だから厳密には「混乱させる」は動詞の連体形です。
直訳すると
上は、「それは (人を) 混乱させる」 (動作)
下は、「それは (人を) 混乱させる (ものだ) 」 (性質)
こなれた日本語ではそれぞれこうなります。
「 (人が) それに混乱する」
「 (人には) それはまぎらわしい」
たとえ英語で
It confuses 人. と書かれていても
人 is confused with it. と考え
「人がそれに混乱する」
「それはまぎらわしい」
と訳したほうがいいです。
とうぜん外国人の生徒にもそのように教えます。
英語は自他両方につかう動詞が多い
open 開く (あく) / 開ける
change 変わる / 変える
たとえばブレンドコーヒー。
blend には「混ぜる (他) 」と「混ざる (自) 」両方の意味があります。
もちろん英語圏の人はそんなこと知らないし、考えたことも気にしたこともなくつかっています。
でも、日本語では自他の動詞の区別がはっきりしていて「混ぜる」と「混ざる」はべつの言葉です。
ただ、つかうときにはその区別が曖昧になることがよくあります。
日本語では他動詞とその受身を嫌い、できるだけ自動詞をつかうからです。
英語圏の人は「ブレンド豆」をこう言います。
「混ぜ合わされた豆」
誰か (人) が豆を混ぜ合わせる。→混ぜ合わせた。豆は人によって混ぜ合わされた。
でも日本人は「 (いろんな種類が) 混ざった / 混ざっている豆」といいます。
じっさいには人が「混ぜ合わせた」んだけど、言葉としては
「豆がひとりでに、かってに、自然に集まってきて混ざった😄」
かのように表現します。
この場合は物 (豆) のほうが主語になっているけど、根底にあるのは「できるだけ自動詞をつかう」ということです。
日本人はだれも「豆に足が生えて歩いてきた」とは思ってないし、自動詞か他動詞かなんて考えていません。
ここが動詞としては自他の区別がはっきりしているのに、つかうときには曖昧になる例です。
繰りかえしになりますが、それは他動詞とその受身を嫌い、自動詞をつかうからです。
まあ日本でも「混ざっている豆」とはいわず「ブレンド豆」か「ブレンドした豆」ですね。
「ブレンドした」といったときは動作主は人間です。
「ブレンドされた豆」というと英語に毒された人の言いかたです。
kill 物事が人を、殺す (他動詞) →人が物事で、死ぬ (自動詞)
あまりいい例ではありませんが、この単語はニュースによく出てきます。
A plane crashed, killing all passengers.
= All passengers were killed in a plane crash.
飛行機が墜落した。すべての乗客を殺して。×
すべての乗客は飛行機の墜落で殺された。×
crash も上の例では動詞、下の例では名詞です。
動詞も名詞もおなじで、自動詞と他動詞の区別もない。
よくいえば覚える単語が少なくてすむ。
悪くいえばわかりにくい。
それこそ日本人には混乱の種です😄
日本語ではこのようにいいます。
→
飛行機が墜落して、乗客全員が死亡した。○
飛行機の墜落 (事故) で、乗客全員が死亡した。○
英語の新聞の見出しではしばしば be動詞は省略されて/して、つぎのように書かれます/書きます。
(あえて受身の形で書きました。これも英語の直訳から使われる/使うようになったもので、ほんらい日本語では受身は使われません/を使いません)
57 killed in a crash (見出し)
57 passengers were killed in a (plane) crash. です。
57 passengers died in a plane crash.
とも言えるんだけど、英語を話す人は物を主語にして were killed を好んでつかいます。
これは日本語で物を主語にしないのとおなじように、英語圏の文化・考えかたなので英語をつかうときはそれに従いましょう。
かれらにしてみれば died でもまちがいではないし意味はわかるけど、なんか変という感じなんでしょう。
わたしは日本語教師をしています
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