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- 1 はじめに
- 2 kahu soaring
- 3 thermal soaring 熱上昇風
- 4 ridge soaring 斜面滑翔
- 5 wave flight 山岳波
- 6 到着日 2024年11月3日(日)
- 7 フライト初日 2024年11月4日(月)
- 8 フライト2日目 2024年11月5日(火)
- 9 フライト3日目 2024年11月6日(水)
- 10 フライト4日目 2024年11月7日(木)
- 11 最終日 2024年11月8日(金)
- 12 フライト蘊蓄
- 13 ギャラリー
- 14 おじさんオススメの記事
- 15 注目の記事
- 16 話題の記事
- 17 人気の記事
「wave flight」「mountain soaring」「山岳滑翔」
グライダーってなんじゃらほいという人にまず動画を。
ということで書きはじめましたが筆が止まらない (筆か😄)
今回の旅とフライトは内容が充実していて感じることもたくさんありとても書ききれません。
ぜんぶ書くと1年ぐらいかかりそうなのでほどほどでやめておきます。
はじめに
そもそもなんでニュージーランドに行くことになったか。
それは山岳滑翔をやりたかったからです。
グライダーで山の上を飛びたかったんです。
もちろん飛びたいのがいちばんの理由だけど、こだわるのには40年前の20歳のときのいや~な経験があります。
なんとか死ぬまでにリベンジしたい。
ただグライダーに乗る以上に、自分の人生、生き方にかかわる一大イベントです。
努力はムダと感じた瞬間 ~ この世は運が牛耳っている!そして不公平なもの!
ネットで調べたけど商業ベースでグライダーに乗れるところが意外とありません。
ていうか、オーストリアとニュージーランドしか見つかりませんでした。
自分でグライダーを持っていて、ヨーロッパやアフリカなどで飛んだという記事やYouTube動画はいくらでも出てきます。
でもお金を払って乗せてもらえるところはとんとないんです。
オーストリア
念のために、オーストラリアではなくヨーロッパのオーストリアね。
オーストラリアとオーストリア ~ どう違うの? 南の国と東の国!?
オーストリアは国際空港がグライダーの発着場なのでとても便利です。
レンタカーなど借りる必要もない。
移動時間もない。
迷うこともけっしてない。
そしてわりと町の近く。
はじめはオーストリアに行こうと思いました。
なんとなくグライダーといえばドイツ発祥 (真偽のほどは定かでない) でヨーロッパがいいなという感じ。
ASK-13/21やKa-8などはRudolf Kaiserが設計し、Alexander Schleicher社が作ったグライダーです。
Duo DiscusやArcusもドイツのSchempp-Hirthが作っているグライダーです。
あと娘がドイツにいるのでついでに寄れるかなとか。
しかし、ここがメッセージを送っても梨の礫。
地元の観光局に聞いてもわからない。
いや、やってるかどうかはわかるだろう。
こんなんで何度かメッセージを送っても一向に返事がないので、最後にいやみったらしくドイツ語で
「この人は英語がわからないらしい。他のところで飛ぶからもういいよ」
とメッセージを送ったとたん返事が来ました。
「何度も返事を送ったんだよ」とな。
いえいえ、なんで今回だけ返事がすぐ来るんですか😄
なんかオーストリア人に対して偏見を持つようになりました。
こんなところだとかりに予約しても、いざ着いたらやってなかったとか、
「えっ?そんなの聞いてないよ」
とか言われそうなのでやめました。
それでニュージーランドに転向しました。
ニュージーランド
こちらはちょっとハードルが高いです。
空港からレンタカーで2時間ドライブしないといけない。
迷わずに行けるだろうか?
事故に巻き込まれたりしないだろうか?
不安です。
でも、料金もこちらのほうが安いのでこちらにしました。
kahu soaring
kahu soaringというところです。
kāhuはMāori (マオリ語) で (ミナミ) チュウヒの意味。
チュウヒと言われてもおじさんもはじめて聞きます。
英語ではswamp harrierといいます。
swampは沼地、湿地。
harrierはチュウヒ。
harryは「繰り返し攻撃する」という意味があります。
学名はCircus。
発音はキルクス。
見たことある?
そうです。英語のサーカスです。
circusはcircleと語源がおなじで「◯」を表します。
サーカスは円形競技場、興行場の意味です。
チュウヒはなぜCircusか?
くるくる輪を書いて飛ぶからです。
日本では鳶が身近ですね。
チュウヒの由来は「宙飛」。
鷹の仲間です。
漢字では「沢鵟」と書くらしいです。
wikipediaより引用、加筆
Milan Kmetvicsという人がやっています。
ハンガリー出身でニュージーランドには10年ぐらい前に来ました。
なぜニュージーランドに来たのか聞いたら、グライダーで飛ぶのにとてもいい条件が揃っている。
waveはしょっちゅう出るし、不時着場もたくさんある。
それから人も温かくて親切だと言ってました。
機体はDuo Discus (複座) 。
thermal soaring 熱上昇風
ざっとグライダーの用語をおさらい。
thermal (サーマル) 、ドイツ語ではThermik (テルミック) は「熱」の意味で、太陽光で温められた地面の熱が上昇することで生まれます。
上昇すると気温は下がるので露点温度以下になると水蒸気が凝結して雲となって目に見えるようになります。
それが積雲 (綿雲) です。
みなさんがお風呂から出たあとの浴室や、冬に暖房をつかっていると窓ガラスに結露して水滴がつくのがこの現象です。
あっ、それからシャンプーがだんだん水っぽくなるのもこのせいです。
凝結すると凝結熱 (気化熱の反対) を放出するのでさらに勢いよく上昇します。
露点温度になる高度はその一帯ではおなじなので、雲底 (雲の下) は平らになります。
鳶がよくクルクル回っているのを見ますが、かれらはこの熱上昇風の中を旋回して空高く上がっていきます。
なぜクルクル回るのか?
熱上昇風は煙突のようなもので細いので、まっすぐ飛んでいるとすぐ通り抜けてしまうからです。
鳥もグライダーも空中で止まるわけにはいかないので旋回して同じ場所にいようとします。
ridge soaring 斜面滑翔
おじさんが学生時代にやりたかったのはこれです。
これは山の斜面に当たった風が行き場がないので上に押し上げられる現象です。
山の稜線と平行に風上で行ったり来たりすれば旋回することなく上昇できます。
wave flight 山岳波
これは上の斜面上昇風と反対に風下にできます。
山に当たった風は風上で持ち上げられるけど、山の稜線を越えると今度は下に吹き下ろします。
でも地面があるのでずっと吹き下ろすことはできずに、蛇行して上がったり下がったりします。
この上昇するところにいれば、ずっと上がっていくことができます。
この上昇するところにはしばしばlenticular cloud (レンズ雲) が発生します。
条件がよければ10000mでも上がれます。
国際線の旅客機が飛ぶ高度ですね。
酸素吸入
10000ft (3000m) を超えたら酸素吸入をはじめます。
1ft=0.3mです。
feetは足。
欧米人はみんな足のサイズが30cmもあるのか😮
ちなみに1尺も約30cmです。
10000ftは富士山の8合目くらいですかね。
富士山頂 (3776m) で気圧は地上の2/3くらい。
つまり酸素も2/3くらい。
5500mで気圧は地上の半分。
酸素も半分になります。
到着日 2024年11月3日(日)
夕方にモーテルに着いたらミランが迎えに来てくれて、ディナーに誘ってくれました。
もちろん仕事ではなくフライト料金にもふくまれていません。
Omarama airfield (オマラマ飛行場) の近くの仲間の家に6、7人全員パイロットが集まりました。
ほとんどが年寄りです😅
若い男女が2人だけいました。
翌日わかったことですが、かれらは飛行場でスタッフとして働いていました。
食べられないものはあるかと聞かれたので、チーズは苦手だと言うと、炒飯のようなものを用意してくれました。
米を焚いたわけではなくレトルトみたいですが。
ワインとジントニックもいただきました🍷
フライト初日 2024年11月4日(月)
朝ごはん🍚
オマラマは今おじさんが住んでいるところに匹敵するド田舎なので朝ごはんが食べられるところは1軒しかありません。
選択の余地はありません。
そこで朝ごはんを済ませてから飛行場に向かいます。
といっても小さな町なので、モーテル、レストラン、飛行場は車で5分くらいの距離に固まっています。
ブリーフィング
朝10時から飛行場でブリーフィングがはじまります。
20~30人くらい集まります。
こんなに飛ぶ人いるんだ😮
もちろん外人 (向こうから見て外人ね) はおじさん1人。
気象データからサーマルではどれぐらいの高度まで上がれるかとか、convergenceがあるとか、いちばん重要なwaveはどこで発生して高度はどれぐらいまで上がれるかなどを説明しているらしいんだけどまったくわかりません。
一言もわかりません。
ただ1人言葉のわからない日本人がいる。
おじさんはこういう経験を何度もしているんだけど、いつも場違いな感じがします。
ニュージーランドの玄関口のオークランド空港では日本人の観光客もいたけど、国内線に乗り換えたとたん日本人は誰もいなくなります。
いつものことです。
30分ぐらいでブリーフィングは終わりフライトは午後1時から。
昼飯
朝ごはんにベーコンエッグを頼んだら2~3人前分ぐらいあったので残りを持ち帰りました。
紙の入れものをくれました。
モーテルには電子レンジがあるのでそれで温めて食べました。
一言英語
Can I take the leftovers home?
残り物を持って帰りたいんですが…
いよいよフライト
午後1時にふたたび飛行場に行きます。
グライダーなど基本的にぜんぶあちらで準備してくれます。
ここが日本のグライダー界とちがうところです。
日本では学生だけでなく社会人クラブでも自分で準備その他の雑用をしなければなりません。
まあスタッフがいればその分人件費がかかるということがありますが、それだけではなさそうです。
おじさんはグライダーだけでなく、エンジン付きの飛行機、ハンググライダー、パラグライダー、スカイダイビングとありとあらゆるスカイスポーツをやってきましたが、日本の航空界のパイロットやインストラクターは生徒の上にあぐらをかいていて、べつの言葉をつかうならふんぞり返っていて、さらに威張りくさっていて、生徒と言えど金を払っている客で自分はそのおかげで飯を食っているのに客に雑用をやらせるのが当たりまえだと思っています。
このへんが日本で飛びたくない理由です。
Omarama airfield オマラマ飛行場
自分の身のまわりの準備やウィンチ、曳航機の順番待ちなどで飛び立つのは1時半から2時くらいになります。
ミランは飛行場のスタッフとしてほかにもやることがあるようでバタバタと走り回っていました。
ただ、おじさんには説明がありません。
放置プレイ😅
これからwave flightをやるのに2時出発なんて遅いなと思ってたけど、オマラマは札幌とおなじぐらいの緯度で春から夏。
そしてサマータイムのおかげで夕方6時だと太陽はまだ地平線より45°ぐらい上にあります。
そして、夜9時まで明るいです😮
初日は最高気温が10℃ですこし肌寒かったです。
飛行場の標高
ASL (Above Sea Level) 標高 (海抜) は1400ft。
420m。
おじさん住んでいるところとおなじぐらいです。
思ったほど高くありません。
QNH
日々時々刻々気圧は変わります。
高度計は気圧で測っているので、その瞬間の気圧で1400ftに合わせます。
3~4時間も飛んでいれば着陸するときには気圧が変わっていて高度計をそれに合わせる必要があります。
フライト前の説明
酸素吸入の説明はしてもらったけど、それ以外のことは一切ありませんでした。
まあここに乗りに来てwaveに乗りたいなどと言う人はそれ相応の知識と経験があると思っているのでしょう。
操縦桿の説明なんかないし、パラシュートの使いかたの説明もない。
いちおう聞いたら「わたしは1度もつかったことがない」とのこと。
そうだろうねえ。
パラシュートつかうということは、グライダーを捨てるということだから。
天気予報は悪かったけど雨は降らず無事飛ぶことができました。
おじさんはずっと不運続きでニュージーランドまで行ってほんとにグライダーに乗れるのか不安でしかたありませんでした。
15年ぶりのグライダー
じつに15年ぶりです。
操縦もさることながら、旋回で気持ち悪くなったりしないか心配したけど杞憂に終わりました。
45度バンクくらいでクルクル回っても大丈夫。
上を見ても下を見ても大丈夫。
上空で高度を稼いだら操縦させてくれました。
最初は直線飛行だけだったけど、そのうちサーマル旋回もやらせてくれました。
自分でも驚くくらい当たりまえに操縦できてしまいました。
おじさんすごい!
ridge soaring 斜面滑翔
40年前のリベンジ。
リベンジにはならないけどこれをやらずに死んだら死んでも死にきれない。
日本の山など相手にならない。
最初からここに来ればよかった。
山の稜線に沿って気持ちよく飛びます。
wave 雲上飛行
見えないエレベータがあちこちにあるようなもんで、サーマルで上がれるところまで上がって、今度は1つ上の階層のエレベータに乗り換えてwaveの層まで上がります。
waveにはいると気流も安定していてまっすぐ飛んでるだけでどんどん上がっていきます。
下には積雲のいわゆる雲海が広がっています。
むかし雲のじゅうたんという朝ドラがありました。
浅茅陽子さん主演の飛行士の話だけど中学生のおじさんは朝ドラなんか見てる時間はありません。
朝起きてパンをかじりながら学校まで走っていました。
昼の再放送はもちろん見られないし。
酸素吸入
酸素吸入も生まれてはじめての経験です。
Kanüle (ドイツ語。カニューラ) といってチューブを鼻に入れます。
まるで病院の患者みたいです。
酸素に匂いはないはずだけど独特の匂いを感じました。
おむつ
尾籠な話で申し訳ありませんがとても大事な話です。
フライト時間は3時間。
これだけなら問題ないけど、グライダーにはトイレがありません🚽
気温逓減率
空気は上に上がると温度が下がります。
標準的な温度と湿度の空気だと100m上がるごとに0.65℃気温が下がります。
1000m上がれば地上より6.5℃下がります。
5000mだと33℃下がります。
真夏で地上が33℃でも上空では0℃になるということです。
地上が10℃なら上空ではマイナス23℃。
北海道の真ん中あたりに住んでいたときは最低気温がマイナス25℃になる日は真冬でも1週間ぐらいでした。
旅客機が飛ぶ高度の10000mだと外気温はマイナス50℃にもなります。
吹きっさらしではないけど足元からはすこしすきま風がはいってきます。
また風防が曇るのを防ぐためにすこしだけベンチレーション (換気口) を開けておきます。
だからおむつは必須です。
ホースにビニール袋というスタイルもあるらしいです。
おじさんは潰瘍性大腸炎があるので小のほうだけでなく、大のほうも心配でしたが、体調はよくさいわいおむつのお世話になることはありませんでした。
でもおしっこしたくなったから降りるなんてもったいないのでおむつはかならずしましょう👍️
それからコーヒーは飲まないようにしました。
トイレに行きたくなるからねえ。
服装
順番が前後しますが、季節は夏でも上空は寒いので冬山に行くかっこうをします。
今回、ニュージーランドでは春といってもオマラマの緯度は札幌とおなじ45度ぐらいのところに位置して、飛行場の標高がすでに420mあるので防寒のインナーにズボン、その上からさらにスキーパンツを履きました。
ふつうの靴では寒いので雪国用のスノーブーツを履きます🥾
手袋もポケットに入れておきます🧤
上半身は日が当たればそこまで寒くないけど無い袖は振れないのでジャンパーなど用意して持っていきます。
シートベルトをしているし機内はまさにcockpit (鳥小屋) なので上でジャンパーを着ることはできないけど、羽織ることはできます。
2日目からは地上で20℃ぐらいのちょうどいい気温になりましたが、上空ではこのかっこうでちょうどよかったです。
地上ではすこし汗ばむくらいでちょうどいいです。
もちろん出発前に汗を掻きすぎると上空でそれが冷えてしまうのでほどほどに。
もう1つ言えば登山者では常識ですが、綿は濡れると乾かなくて凍傷になる可能性があるので、靴下をふくめて濡れてもすぐ乾く化繊の下着を着ます。
天然素材でも水を吸いにくい羊毛などはOKです。
水🚰
寒いところで動くこともないので3時間ぐらいなら水も要らないけど、酸素吸入をすると酸素には水分がまったくはいっていない (湿度0%) ので喉が乾燥することがあります。
ペットボトルや水筒も持っていくといいでしょう。
おじさんは上空で飲むことはなかったけど、場外着陸したときに飲みました。
いきなり5000m超え
初日にridge soaringをあっさりと済ませて、いきなりwaveで17500ft (5250m) まで上がりました。
Aoraki (Mt. Cook)
ニュージーランドでいちばん高い山アオラキより高いところを飛んでいます。
あいにく雲で見えませんでしたが、その後のフライトでも何度も上空からアオラキを見ました。
標高は3724mで富士山の3776mよりすこしだけ低いです。
見る方向によっては上が平らの台形に見えます。
着陸
着陸も滑走路にまっすぐではなく斜めに。
理由は横風がとても強かったからなるべく風に正対して降りるためでした。
Duo Discus
L/D (滑空比) 46
ディスカスのL/Dはカタログ上46もあります。
高度1mで46m進むということです。
高度1000mあれば46km先まで行けちゃうということです😮
学生時代乗っていたASK13やKa-8はせいぜいL/Dが20くらいで強風だとぜんぜん前に進まない。
突っ込むとL/Dは極端に悪くなってほとんど「落ちてる」感じでした。
ダイブブレーキ
ディスカスは高性能なのにダイブブレーキの効きはとてもよく、こんな高いところからだったらぜったいオーバーシュートだと思うのに、まるでパラシュートのように深い角度で降りられます。
失速特性
めちゃくちゃ安定しています。
最後の日に実演してくれたけど、機首を持ち上げて失速させても一気に頭が下を向くことはなくそのままの姿勢で粘ります。
また旋回失速でもそのままゆっくり頭が下がりスピンにはいるような挙動はしません。
操縦桿を引いただけではスピンにはいらないと言っても過言ではありません。
エルロン当て舵の内側のラダーを踏み込むクロスコントロールにならなければまずスピンにはいりません。
この記事のいちばん最初と最後にその動画があります。
失速すると「stall」という警告の音声が流れます。
adverse yaw
アドバースヨーは大きいです。
エルロンをつかったら、同時にラダーもしっかり踏む必要があります。
2024年11月4日のフライト動画
weglide.org
weglideというサイトがあり飛行データと軌跡が載っています。
飛行経路上のカメラアイコン📷️をクリックすればその地点での写真が見られます。
2024年11月4日(月)の飛行データと軌跡
飛行距離230km。
フライト2日目 2024年11月5日(火)
2日目からは一気に気温が上がって20℃ぐらい。
今回、心配していたことの1つに天気があります。
これは今回にかぎらず外でやることにはかならず天気の問題がつきまといます。
おおむかしオーストラリアに行ったときは1週間ずっと天気が悪くてほとんど場周飛行しかできなかった苦い思い出があります。
winch tow ウィンチ曳航
ウィンチ曳航は学生の定番です。
まさかここでウィンチ曳航をやるとは思ってもみませんでした。
ウィンチ曳航は長さ1km以上のワイヤーを巨大な糸車で巻きとり凧のように揚げる方法です。
リトリブはなんと日本の軽トラでした。
異次元の加速度
動き出してから数秒で100km/hになります。
F1でもこの加速はないのでは。
車はしょせんタイヤと路面の摩擦力で動かしています。
飛行機は空気を押して加速します。
ウィンチ曳航は直接ワイヤーで引っ張っているので摩擦や滑りはありません。
しかも上昇角は45°ぐらい。
ほとんど空しか見えません。
生まれてはじめてのoutlanding 場外着陸
グライダーにはエンジンがありません。
上昇気流をうまくつかめないと飛行場に帰れないことがあります。
そんなときは飛行場でないところ、つまり飛行場外に降りることになります。
これは不時着であって、墜落ではありません。
エンジン付きの飛行機でもエンジントラブルで飛行場外に降りることがあります。
それは不時着であって、墜落ではありません。
念のため。
グライダーはいつもぶっつけ本番。やり直しはきかない。
グライダーはエンジンがないのでいつも緊急着陸をしているようなもんです。
飛行機のようにgo around (着陸復航。やり直し) はありません。
ウィンチ曳航で出てみたもののなかなかサーマルがつかまりません。
上昇気流がありそうな山の方へ飛んでいきますが高度はどんどん下がっていきます。
たとえ高度がおなじでも山に近づくと地面のほうが上がってくるので対地高度 (相対的な地面に対する高度。AGL。Above Ground Level) は下がってきます。
わかりやすく言えば地面が近づいてきます。
もっとわかりやすく言えば、富士山の上を飛ぶには最低でも3776mの高度が必要だということです。
場外着陸
どんどん地面が近づいてくるけどミランは旋回を続けます。
意外と不安はありませんでした。
毎日自分の庭の散歩のごとく飛んでいるベテランパイロットが操縦してるんだから大丈夫だろう。
それから、切り立った山の上ではなく下には平らな草原が広がっていたのでもし降りることになっても問題ないと思いました。
う~ん。
でもどんどん地面が近くなって来るな。
説明はいっさいない😅
ただ1つだけ問題があるとすれば何の説明もないことでしょうか。
おじさんはこういうことに慣れているのでいいけど、知らない人はかなり怖いと思います。
いや、そもそもそんな初心者はわざわざニュージーランドの超辺鄙なところに来てまでグライダーに乗ったりしないか。
あっ、ギア (車輪) を出した。
降りる気満々じゃん。
これはもうすぐ降りるだろうと思っているのに、ミランは鼻歌を歌っています😄
ついに降りた!
農業用の飛行場
場外着陸といったけど完全な場外でもありません。
というのはオマラマ飛行場のまわりにはあちこちこういう場所があるということがあとでわかりました。
不思議に思ったのはすでに下にはグライダーが1機いたことです。
いちおう下は整備してありました。
ただ人が滞在するような建物はありませんでした。
機体押し
これまた何の説明もなく機体押しさせられました😅
こちらは金を払っている客とか関係ない。
2人しかいないんだからおじさんも押さなきゃグライダーが動かせない。
整備されているとはいえ、下は凸凹で短い草が生えているのでグライダーがとても重く感じます。
何の説明もないし、ごめんなさいもありがとうもありません。
でも、ミランはニコニコ笑っています。
このへんが日本人とちがいます。
まあいいか。
べつにおじさんも不愉快ではありませんでした。
ただ、今の状況とこれからの予定を説明してほしかっただけです。
名誉のために言っておきますが、こういうところはいい加減に感じるけど、むしろ日本人ならやらないもてなしをいろいろとしてくれます。
たとえば右も左もわからないおじさんのために、スーパーの買いものや、ガソリンスタンドでの給油までつきあってくれました。
晩餐会に呼んでくれたり、フライトの写真を印刷して渡してくれたりもしました。
至れり尽くせりです。
「困ったことがあったらいつでも電話してね😉」
tow plane 曳航機
日本ではtug (タグ。引っ張る。曳航する) ともいいますね。
ミランが言ったのはただ一言これだけ。
まあおじさんもまったくの素人ではないので、この後曳航機が来るか、トレーラーが来てばらすかのどちらかだろうとは思いました。
ミランは携帯で電話したり、グライダーの無線で何やらしゃべっています。
まあ、なんか来るんだろう。
おじさんの心配はここに取り残されるかということではなく、「今日のフライトはこれでおしまい?」でした。
今からトレーラーが来てばらして積み込んでオマラマ飛行場にもどってまた組み立てたらもう飛ぶ時間はないだろう。
人が現れる😮
ほかにも降りるグライダーがいるかもしれないということで機体押し。
ミランがあちこち連絡してるなというところで、とつぜん人が現れました。
Hi!
…Hi.
誰?
ここの管理者?
先に場外着陸していたグライダーのパイロット
この人は先に場外着陸していたグライダーのパイロットでした。
しばらくするとふつうの乗用車に牽引されたトレーラーがやってきました。
車からは元気な老婆と若い娘さんが降りてきました。
なんせおじさんは英語がよくわからないので詳しく聞くことはできないけど、状況から関係者であることはわかりました。
機体ばらしとトレーラーへの積み込み
繰り返すけど英語は得意でないのでありきたりの挨拶だけして、かれらはかれらのグライダーをばらしはじめました。
ミランも手伝っています。
おじさんも手伝ってもいいんだけど言葉がよくわからないので下手に手を出してもかえって足手まといになると思ってやめました。
日本では機体のばらしや組み立てはヒステリックです。
ほんと貧しいですね。
たしかにグライダーは高級車も屁でないくらい高価なものだけど日本人は神経質すぎます。
学生時代の機体ばらしや組み立ては最低でも1時間はかかるような一大事だったけど、かれらはあっさりと翼を外し当たりまえのようにトレーラーに積み込んでいきます。
子どもがブロックをばらすレベルです。
見る見る間に解体されトレーラーに飲み込まれていく。
数分のことです。
これもかれらにとってはめずらしいことではなく、日常茶飯事なのでしょう。
いつものこと。
それこそ文字通りみなさんがお茶を飲んだりご飯を食べたりするのとおなじレベル。
曳航機の飛来
機体ばらしを撮影していると飛行機が飛んできました。
どうやら曳航機のようです。
そしてこれも当たりまえのように着陸します。
場外着陸地からの離陸
これですこし安心しました。
ここにいた時間は30分くらい。
たぶんもう1度山岳滑翔をやってくれるんだろう。
たぶん。
このままオマラマ飛行場に引き返すということはあるまい。
曳航機はぐんぐん山に向かって飛んでいきます。
おそらくこのパイロットもグライダー乗りでしょう。
ふつうのエンジン付きの飛行機のパイロットなら山に向かって飛ぶなど言語道断。
しかしかれは何のためらいもなく一直線に山に向かって飛んでいき、稜線に沿ってさら飛びます。
そう。
エンジン付きの飛行機であっても何もないところを飛ぶより、上昇気流があるところを飛んだほうが早く高度を稼げるんです。
それから、離脱 (曳航索を切り離すこと) したあともグライダーが上昇気流の中にいるので助かります。
曳航機がグライダーをエレベータまで連れて行ってくれるような感じですね。
こんなロスタイムといおうかアトラクションといおうかがあったにもかかわらず、この日もwaveで8000ft (2400m。富士山の五合目くらい) 近くまで上がりました。
飛行時間は3時間。
飛行距離240km。
2024年11月5日のフライト動画
2024年11月5日(火)の飛行データと軌跡
フライト3日目 2024年11月6日(水)
今日もいい天気🌞
ほんとに天気に恵まれました。
オマラマではサーマルとwaveだけでなく、コンバージェンスという言葉もよく聞きます。
convergence コンバージェンス
convergenceの意味は「収束」「収斂」です。
よくわかりませんね。
海陸風前線
これは日本で海陸風前線と呼ばれているものです。
Sea breeze 海風
オマラマは南島の真ん中にあり海からは100kmも離れています。
それでも海から風がはいってきます。
冷たい風です。
これが陸地の暖かい空気の下に潜り込んで空気を持ち上げ、そこにサーマルと積雲が発生します。
構造としては寒冷前線とおなじです。
何もなくても陸地が太陽に温められるとサーマルが発生するのですが、冷たい海風がはいってくることでさらに上昇気流が発生しやすくなります。
ミランにフライト時間はどれぐらいがいいかと聞かれ、3時間ぐらいがいいと答えました。
3時間も乗ってると背中や腰が痛くなります😅
おしっこもがまんできるし、快適にフライトを楽しめる長さです。
でも気がついてみれば4時間飛んでいました。
でも今日もwaveに乗り9000ft (2700m) まで上がりました。
飛行距離250km。
2024年11月6日のフライト動画
2024年11月6日(水)の飛行データと軌跡
フライト4日目 2024年11月7日(木)
今日もいい天気。
翌8日は飛べなかったので実質的には今日がフライト最終日。
この日はずっとアオラキに向かって飛んでいましたが途中で引き返しました。
この日の夜には晩餐会があったので引き返したのかと思いましたが、雲が厚くてなんらかの事情で雲の下に降りなければならなくなったときに有視界飛行で飛んでいるグライダーには危険なのでやめたとのことです。
いや、ほんとは晩餐会に間に合わせるためだろう😄
それでも予定の3時間ではなく4時間飛んでくれたのでかれとしてはほんとにアオラキまで行きたかったのだと思います。
たぶん。
waveに乗り富士山頂に匹敵する12000ft (3600m) まで上がりました。
飛行距離270km。
2024年11月7日のフライト動画
2024年11月7日(木)の飛行データと軌跡
最終日 2024年11月8日(金)
雨まじりで条件悪くフライトはなし。
それでも4日間で14時間飛べました。
いちおう5日間で15時間という設定ですが自然が相手なのでそのとおりにはいきません。
じつを言うと、日本からオマラマまでの旅や食べものとの格闘、毎日3~4時間のフライトで疲れていたのでちょうどいいと思いました。
この日飛んだら苦行になっていたかもしれません。
観光
elephant rocks 象岩🐘
世界一役に立たないおじさんのニュージーランド旅行記 ~ Elephant Rocks 象岩🐘
象みたいな?岩がたくさん並んでいます。
面白いのは牧草地で羊がそこここにいることです。
ニュージーランドの羊は人間を見るとそそくさと逃げていきます。
よっぽどひどい目にあっているのか?😄
日本の観光牧場みたいに撫で撫ではできません。
ミランがすすめる候補地
Steampunk HQ 蒸気機関博物館
Benmore Hydro Station ベンモア・ダム (発電所)
フライト蘊蓄
旋回は slip (内滑り) させろ
日本のグライダー界ではとにかく滑らせるな、糸ゲージをまっすぐにしろと口を酸っぱくして言われます。
もちろん高度があってふつうの旋回はできるだけ滑らせないのがいいです。
滑らせるということは無駄な空気抵抗が生まれるので損します。
が、しかし世界はちがいます。
coordinate turn 滑りのない旋回
グライダーに乗ってサーマルの中で旋回した人ならみんな知ってるはずですが、旋回半径を小さくして速度を抜いていくと、外翼のほうが速度が速いのでバンクはどんどん深くなっていきます。
とうぜん舵がついているのでエルロンを外側に切って一定のバンクを保つようにします。
いっぽうそのままでは機首の回頭が遅いので内側のラダーを踏み込みます。
クロスコントロール
エルロンは外に切って、ラダーは内側に踏み込む。
手と足が反対になるのでクロスコントロールと言われます。
こうなるとすでにエルロンが外側に切られているのでそれ以上切れません。
つまりバンクをもどすことができないという苦境に追い込まれます。
skidding 外滑り
外滑りという言葉はわかりにくいです。
バンクとバックプレッシャーをつかわずに、内側のラダーだけ踏んで曲がる、車のような曲がりかたです。
リアタイヤが外に流れるいわゆるドリフト走行みたいな動きになります。
すると内側の翼が失速してスピンにはいる可能性が高くなります。
またエルロンを外に切ると内側の迎え角が大きくなるのでさらにスピンにはいりやすくなります。
slipping 内滑り
こちらはエルロンだけつかって傾けて、内側のラダーが足りない状態です。
むしろ初心者は操縦桿だけ動かして足を動かさないのでこの状態になることが多いです。
ここまで書いたらわかると思いますが、外滑りは論外。
滑りのない旋回でもクロスコントロールになるのはスピンにはいる可能性が高くなるので、山の近くや低い高度では大変危険です。
aileron neutral エルロン中立
山の近くや低高度ではこれが鉄則。
内滑りになってもエルロンを外に切らない。
ラダーを内側に踏み込まない。
糸ゲージはいつも旋回の外側 (空の方) に向いててOK👍️
これが安全な飛びかたです。
失速特性がとてもいいDuo Discus
ミランが水平での失速と2通りの旋回失速を実演してくれました。
ギャラリー
初日
Omarama airfield オマラマ飛行場
glider & flight
Delta Delta
機体番号はDD。
航空無線でつかうphonetic alphbetではDelta Deltaといいます。
しかしミランの発音はどう聞いても「ダータダータ」でした。
これがニュージーランドの英語が聞き取りにくい理由だったのでしょうか?
それともハンガリー訛り?
正式にはZK-GDD。
ニュージーランドの航空機はZKです。
Gはglider。
そしてアルファベット2文字が固有の番号。
組み合わせの数は26×26=676なのでニュージーランドではグライダーがすくないんでしょうかね。
日本ではJA-2410のように数字4桁です。
2xxx:グライダー (モーターグライダーをふくむ)。2000~2999までで1000機登録できます。
3xxx~4xxx:単発 (プロペラ1コ) 飛行機
のようになっています。
Foxtrot Foxtrot
もう1機FF (Foxtrot Foxtrot) という機体があります。
ちなみにfoxtrotは馬の速歩 (はやあし) のことです🐴
ここに狐は出てきません🦊
かれのこだわりでおなじアルファベットが並んでいるものを選んだそうです。
なんでEE (Echo Echo) はないの?と聞いたら、それはすでにほかの人に登録されていたからとのことです。
17000~17400ft (5100~5200m)
左:高度計 (ft)
真ん中:速度計 (kt ノット)
右:昇降計 (バリオメーター kt) 10ktのまま針が引っかかってもどりません。
下:もう1つの昇降計
2日目
4日目
国道から飛行場への入口
variometer バリオメーター。昇降計
右上のアナログの昇降計は強い上昇風にはいると針が振り切れてそのまま動かなくなってしまいます。
叩くと元にもどるんだけど加減がわからなくて計器のガラスを叩き割ってもいけないのでいつも+10のまま飛んでいます。
真ん中の昇降計で充分です。
山
何の変哲もない山ですが飛行場のすぐ南にあり、だいたいここからサーマルと斜面上昇風を利用して高度を稼ぎ、つぎの山へと移動していきます。
tow plane 曳航機と曳航索
pink glider cafe
現在休業中 (2024年)
Lake Ōhau lodge
「Ō」は場所で「hau」の場所という意味。
hauの意味は「風が強い」という説があるけど正確にはわからないらしい。
そんなのマオリの人に聞けばわかるじゃん。
じゃあ、あなたは日本語の語源をぜんぶ説明できますか?
「やま」はなんで「やま」って言うの?
語源は?
わからないでしょ。
複合語、合成語は説明できるけど基本的な言葉ほど語源は説明できないんですよ。
ニュージーランドの西海岸にŌhauというところがあるけどそれとはべつの場所です。
これもおなじ地名があちこちにあっても不思議でもなんでもない。
日本でもそうでしょ。
晩餐会
ここでグライダーパイロットたちが集まる晩餐会に招待してくれました。
言葉がわからないところでただの観客になる可能性はあるけどミランが熱心に誘ってくれるので行くことにしました。
オマラマから車で30分くらいのところです。
会費は60ドル (6000円) ぐらい。
高っ!
ニュージーランドに来ていちいち驚くけど、まあ晩餐会といえば日本でもそこそこするでしょう。
やっぱり食べきれないので持ち帰りました。
例のごとく立派なプラスチックのタッパーをくれました。
持って帰ったのはおじさんだけですね。
ほかの人は完食したかと言えばそうでもなく残してました。
意外にも日本の滝川滑空場に行った人もいてその話でかんたんな会話はできました。
鮭の皮
ミランはスモークサーモンを頼んだけど皮は残してました。
おじさんは素朴な疑問で「皮は食べないの?」と聞いたら
「ふつうは食べないでしょ」と答えた。
そうなんだ。
たしかに鮭の皮はハンドバッグになるくらい丈夫なのでなかなか噛めない。
おじさんも、鯵や秋刀魚の皮は食べるけど鮭の皮は残します。
むかしとある場所で「皮もパリパリなので食べてください」とわざわざ言われたくらい、ふつうの人はやっぱり食べないものなんだ。
湖はなぜ青い?
ミランによれば、氷河が削った細かい岩の粒子が水にふくまれているからとのこと。
ミランが撮ってくれた写真
カメラはCANON。
プリンターもCANON。
印刷用紙はドイツ製のコットンペーパー (綿紙) 。200年持つそうです。おじさんの死後、遺品として残るのか。