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「飛行機 (ひこうき) はなぜ飛ぶか?」「迎え角」「作用反作用」「コアンダ」「揚力係数」
何よりまず
迎え角 (むかえかく)
そして、2番目にちょこっとお手伝いの
コアンダ効果
です。
あれ?
ベルヌーイの定理
じゃないの? と思ったかたは、少し飛行機のことをご存じですね。
迎え角 (むかえかく)
空気を「迎える角度」なのでこう呼ばれます。
英語では “Angle of Attack” (AOA) といいます。
そのまま訳すと、「攻撃角」になってしまいますが、空気が翼を「攻撃する」、翼に「襲いかかる」…まあ「ぶつかる」くらいの感じですかね(^_^;)
迎え角 “0” の状態
下の絵はよくある「インチキ理論」と「インチキ実験」の図です。
この状態では、ほぼ水平飛行から緩やかな降下になります。
じっさいにはこの状態になることはありません。
このような気流になるのは、模型の翼を棒の先に固定した「インチキ実験」だけです(^^)
じっさいには飛行機が降下するので気流は斜め下から当たり、下の絵のようになります。
飛行機が最低でも、水平から上昇するには下の絵のようにならなければなりません。
旅客機ではrotationといって、指定の速度に達したら操縦桿を引いて機首を上げます。
機首を上げて迎え角を増やさないかぎり永遠に離陸することはなく滑走路を走る翼の生えたただの自動車になってしまいます。
下の動画はじっさいにおじさんがASK21で「宙返り」をしたところです。
速度が充分あって、操縦桿を引き続ければ真上を向いて、やがて逆さまになり、また下を向いて下りてきます。
操縦桿で「迎え角」を変えているのです。
そのあと、ハーフ・ロールから背面飛行に入ります。
操縦席の中はこんな感じです。
やってみよう! プチ実験 1
理屈はともかく実際にやってみて「感じて」みましょう!
用意するもの
- 扇風機
- 下敷き、うちわなど。厚紙でも薄くて軽いものなら何でもOK!
下敷き、うちわなどを持って扇風機を回すだけ!
やることは次の2つだけです。
- 下敷きの角度を変えるとどうなるか? (迎え角)
- 扇風機の風の強さを変えるとどうなるか? (速度)
下敷きの角度が大きくなるほど、揚力 (下敷きを持ち上げる力) も大きくなるのがわかりますね。
また同じ角度でも、扇風機の風が強くなるほど、揚力も大きくなるのがわかります。
下敷きの角度が「迎え角」です。
扇風機の風の強さが飛行機の「速度」です。
より正確な言い方をすれば、翼に当たる空気の「速度」です。
動画はこちら↓
動画で下敷きが上下に動いているのは揚力のためではなく、手で角度を変えています。
力は、ぜひ実際にやって「感じて」ください✌
作用・反作用の法則 (action-reaction law)
ニュートンの第3法則として知られてますね。
物理や数学が苦手な人でもわかります。
押したら、押し返されるんです。
あなたが壁を押せば、壁が向こうに行く代わりに、あなたが後ろに押し返されます。
壁でなくても、あなたが誰かを押せば、相手も向こうに行くかもしれないけど、あなたも後ろに押し戻されます。
翼は空気を下に押し、反作用として空気は翼を上に押し返すのです!
もういちど
「押したら押し返される」
迎え角と揚力(ようりょく) の関係
① 迎え角が小さい
押し下げられる空気が少ないので、揚力(翼や飛行機を持ち上げる力) も小さいです。
② 迎え角が大きい
押し下げられる空気が多くなるので、反作用としての揚力が大きくなります。
抵抗も大きくなるけど、話がややこしくなるのでここでは説明しません。
離陸したり、上昇する時は、操縦桿を引いて、機首(飛行機の頭) を上げると、翼は胴体に固定されているので翼も上を向きます。
それで迎え角が大きくなります。
だから、翼が胴体に固定されていなくて、翼だけが上を向くように動くのであれば、飛行機そのものは上を向く必要はありません。
③ 迎え角が大きすぎると
ものにはなんでも「ちょうどいいところ」があります。
欲張るとかえって損します(^_^;)
もっと揚力を大きくしようと、迎え角を大きくすると、上面の気流が剥がれはじめます。
こうなると上面の空気はもう引きずり下ろすことができなくなるので、かえって揚力は減ってしまいます。
それも「急激に」「極端に」小さくなってしまいます。
これを
Stall (ストール。失速)
といいます。
日本語では「失速」というけど、「速度がなくなる」ことではなく、上面の気流が剥離 (はくり) して揚力が急激に、極端に小さくなることをいいます。
下面の空気が支える力はまだ残っているので、特別に馬力アップしたアクロバット機ではこの状態でも飛び続けることができるものもあります。
極端な例で、「和凧」はこの失速状態で紐と尻尾をつけて無理やり浮かせています。
これは和凧の様子です。
ストールした状態で浮いてるんですね。
だから、尻尾がないとクルクル回って落ちてしまいます。
でも、この状態でも揚力は発生しているんです。
じっさいには下面の空気が支える力より、上面の空気が吸い上げる力のほうが大きいんです。
これは、上面の空気のほうが負圧により加速されてより大きな力が働くからです。
詳しく知りたい方は「翼 圧力分布」で検索してみてください。
上面のほうが大きいことがわかります。
なので飛行機の翼は上面がとても大事です。
グライダーの競技では離陸前に翼を布で拭くくらいデリケートです。
とくに上面を=^^=
翼の前縁に氷が着くと揚力が極端に減り、抵抗は増えるので、「防氷装置」などが取り付けられているものもあります。
細かいことについてはまたあとで説明しますね。
空気や水の力をじっさいに体験してみましょう!
やってみよう! プチ実験 2
用意するもの
スプーン・ナイフとビニルテープだけ。
家に水道はありますよね(^^)
ナイフ
まずはナイフで水の流れを変えてみましょう!
上の動画を90°倒したのがこちら
ナイフで無理やり水の流れを下に曲げています。
これが空気を下に押し下げている紙飛行機や凧、フリスビーといったものを表しています。
スプーン
蛇口にビニルテープでスプーンをぶら下げてみましょう。
こうすれば手で動かしているのではないことがわかります。
さあ、水を出してみましょう。
水を出すと、スプーンが水の流れに吸い寄せられるのがわかります。
これは上の動画を90°倒したものです。
左右逆になるけど、水を出すとスプーンが浮き上がるのがわかります。
こちらはスプーンをしっかり持って、水の向きが変わるところを撮ったものです。
スプーンの内側ではなく、外側の曲面に沿って、水が流れるところが要です。
手で軽く持つと吸い寄せられるのが手に伝わって来ます!
ほんとに軽~く落ちない程度に持たないとわからないよ。
これは背中がカーブしているフォークでやっても同じ効果が得られます。
コアンダ効果
コアンダ効果については詳しくはこちらに書いてあります。
まずはこちらで予習してください(^^)
「コアンダ効果」~ボールが水や空気にひっつく!
剥離 (はくり)
紙飛行機や下敷きではこんな感じで空気が流れます。
でも、「迎え角」が大きいと「剥離」という現象が起きて「揚力」が小さくなってしまいます。
上面の気流は翼に沿うことができずに表面から剥がれて、渦を巻きます。
気流が表面にくっついてないと、翼に対する影響力が小さくなってしまうんです。
これを飛行機の世界では「失速」といいます。
失速 (しっそく)
英語では “stall” (ストール) といいます。
誰が最初に訳したのかわからないけど「失速」という言葉は失敗でした。
そのまま読むと「速度を失う」と解釈してしまいます。
むしろ「ストール」とそのまま音訳するのがいいです。
それか、意味上からは「気流の剥離」とするのがいいです。
「ストール」とは、翼の上面から気流が剥離して、揚力が小さくなってしまうことなので、スピードがあっても「ストール」は起きます。
また、揚力を失うとか、揚力が無くなるという表現も間違いです。
小さくなるけど、0にはならないからです。
じっさいストールした状態で、降下は速いけど飛び続けることはできるからです。
アクロバット機はしばしばストールした状態で、エンジンの力と、翼と胴体の「空気抵抗」で飛び続けることがあります。
「ストール」とは「迎え角」が大きくなって、翼の上面の気流が剥がれて、揚力がとても小さくなること
と覚えてくださいね。
和凧はもう翼型を完全に無視してます(^^)
でも、この状態でも揚力は発生しているんです。
カーブしてる訳
ただの平らな板や凧のように上面が平らだったり、凹んでたりするとすぐ気流が剥がれてしまい揚力が小さくなってしまいます。
だから、できるだけ気流を上面に貼りつけておきたいんです。
そこで登場するのが「コアンダ効果」です!
空気や水などの「流体」は平面に沿って流れる性質があります。
だから、平面をゆるやかに曲げてやることで、流れをやさしく曲げてやることができるのです。
これが急激に曲げようとすると、気流は表面から剥がれてしまいます。
翼の上面が大きく湾曲しているのは、できるだけ気流が剥がれないように、でも、下向きに変えてやりたいからです。
上面をなめらかに曲げてやることで、凧とちがい気流がなめらかに流れます。
迎え角と揚力係数
揚力の式
$$L={1 \over 2}\rho V^{2}SC_{L}$$
数式が表示されないときはこちらを試してみてください。
Math Processing Error (Math Jax) 数式が表示されない! ~ PC
まず\(1 \over 2\)は定数なんでほっときましょう。
L:揚力
ρ (ロー) :空気密度
簡単にいえば「空気の濃さ (重さ) 」です。
地上にいる時は約1気圧で、高いところに上がるにつれて空気が薄くなっていきます。
富士山の頂上では地上の\(2\over3\)くらいになってしまいます。
空気が濃ければ飛行機を支える力 (揚力) は大きくなるし、高度が上がって空気が薄くなると飛行機を支える力 (揚力) は小さくなるんです。
V:速度
揚力は、速度の2乗に比例して大きくなるということを表しています。
2乗なので、速度が2倍になると、揚力は4倍になるんですね。
S:翼の面積
これもわかりやすいですね。
翼が大きければ大きいほど大きな揚力が発生します。
その代り抵抗も大きくなりますが。
うちわを考えればわかりますね。
大きなうちわほど、風をいっぱい送れるけど、あおぐのに力が要ります。
空気抵抗を感じますね。
CL:揚力係数
これです! 問題は。
$$C_{L}\proptoα$$
α:迎え角!
つまり、揚力係数は、迎え角に比例するということ。
いいかえれば、こういうことです。
迎え角が大きくなると、揚力係数つまり揚力も大きくなる!
このグラフを見れば、迎え角が大きくなると、揚力も大きくなることがわかります。
厳密には比例ではないけど、ほぼ比例に近いです。
それ以上、大きくならない限界があって、その先は下がり始めて、最後は線が途切れてますね。
これは迎え角が大きくなりすぎて、翼の上面の気流が剥がれ始めて、揚力が小さくなり、最後はストールして計測できないのでここで「おしまい」ということです=^^=
アクロバット機はこの先もエンジンのパワーに任せて浮いていることができるけど、それはもはや翼の力ではなく、エンジンとプロペラの力で浮いている状態です。
これはユルギス・カイリスのアクロバットです。
スホーイというアクロバット機でさらに馬力アップして、舵角 (舵の動く範囲) も大きくしています。
わざとストールさせて前進することなく飛行機を浮かせているのがわかります。
普通の飛行機ではできません。
(※ 音が出ます)
プガチョフという人がジェット戦闘機でやった「コブラ」というマニューバが有名ですが、ユルギスは日本ひいきで「ヤキトリ」という名前をつけました(^^)
原点 (0, 0) より揚力係数が少しだけ+側にあるのは、迎え角 “0” でもわずかだけ揚力が発生しているということを意味しています。
ただし、揚力が重さより大きくないと飛行機は浮き上がりません。
ジャンボ旅客機は総重量が300トンを越えます。
だから、300トン以上の揚力がなければジャンボは飛べないんです。
CL:揚力係数のCは “coefficient (係数) ” から。Lはliftの頭文字ですね。
迎え角が大きくなると揚力も大きくなる。
だから、旅客機が離陸するときはあんなに上を向くんですね!
ということでもう一度この写真。
機首を上げることで、翼の迎え角を大きくしているのがわかりますね。
なぜ飛行機は飛ぶのか?
その答えがここにあります。
迎え角≒揚力
ということがわかりましたか?
もちろんこれは正しい数式ではありません。
空気密度、速度、翼の面積が変わらなければ、あとはただ「迎え角」だけに関係するということです。
じっさいには「迎え角」が大きくなると飛行機は上を向いた状態になるので、「空気抵抗」が大きくなって速度がどんどん落ちてきます。
しちむずかしい理屈は置いといて飛行機は「迎え角」で飛ぶということを理解してください。
そして、迎え角が大きくなるとなぜ揚力が大きくなるのか?
それは
押し下げる空気の量が増えるから
です。
むすび
飛行機は
「迎え角」と翼が押し下げた「空気の反作用」で飛ぶ
でした✌
「コアンダ効果」~ボールが水や空気にひっつく!
飛行機はなぜ飛ぶか? ~ベルヌーイの定理では飛ばない!
David Andersonの論文はこちら (英語です)
ジャイロ効果 ~ 飛行機にかかる力
飛行機の免許とアクロバット ~ 一覧
技術博物館 (ベルリン) ~写真集。本館。飛行機
動画ギャラリー (アクロバット)
おじさんがじっさいにASK21というグライダーでやったアクロバットの動画です。
見よう見まねでソロでやらないように。
かならずアクロバットのインストラクターと同乗の上、指示に従ってやってくださいね✌
グライダーのローパスから着陸
地上から撮影。
グライダーはエンジンがないので位置エネルギーを運動エネルギーに変えて速度を増し、ふたたび操縦桿を引いて「迎え角」を大きくして、今度は運動エネルギー (速度) を位置エネルギーに変えます。
つまり、高度を上げることができます。代わりに、速度は減っていきます。
高度100mくらいから地面に突き刺さるくらい機首を下げて加速します。
グライダーは取付角 (翼と胴体の取り付けの角度) が大きいので操縦席から見るとほんとに地面に突っこむ感じがします。
進入速度はおよそ200km/h。
上昇して120km/hくらいまで減速してから180°回ります。
最終進入速度は90km/h。
上昇して速度を抜く理由は2つ。
1つは、高度を稼いで旋回するときに翼端が地面に引っかからないようにするためです。
もう1つは、速度が速いと旋回半径がとても大きくなってしまうからです。
車やバイクに乗ってる人ならわかりますね。
速度を落としたほうが小回りが利くんです。
上のローパスを曳航機から撮影したもの
エンジン音が大きいのでボリュームを下げてくださいね=^^=
雪の上の白いグライダーは見にくいかもしれないけど、とても美しいです。
幻想的でさえあります。
さらに上のローパスを操縦席でも撮影していました!
外から見るとグライダーはとても優雅ですが、中は大忙しです(^^)
地面効果 (じめんこうか)
ローパスする理由
見た目にインパクトがあるから。
操縦が楽しいから。
でも、もっと重要な意味があります。
「迎え角」で飛ぶ飛行機は揚力を得るとともに、「空気抵抗」も受けていていつもブレーキがかけられています。
だから上昇したり、水平飛行するためにはエンジンなどの「動力」が必要です。
車や自転車も、惰性だけではいつか止まってしまいますよね。
紙飛行機やグライダーのように動力がないものは「位置エネルギー」を「運動エネルギー」に変えることで前進しているので、いつも高度を下げ続けて、いつかはかならず地面に下りてきてしまいます。
誘導抗力 (ゆうどうこうりょく)
とくに飛行機の翼は翼端 (翼の端っこ) に起こる渦によって大きな抵抗を受けます。
これを「誘導抗力」といいます。
地面近くを飛ぶと、この渦が地面に邪魔されて大きくならないので「誘導抗力」が小さくなります。
ということは「運動エネルギー」の消費もとても小さくなってより長い時間、飛び続けられるのです。
ここに載せてる動画は訓練のためわざとやっているけど、グライダーでクロスカントリーなどをして着陸場にちょっと届きそうにないときなどはこれを利用するとなんとか届くこともあります。
「運動エネルギー (速度) 」を得るためにかなり頭を突っ込んで「位置エネルギー (高度) 」を一気になくすのは意に反するけど、結果的により遠くまで飛ぶことができます。
地上から。曳航から着陸まで
操縦席から。曳航から着陸まで
操縦席から。宙返り、ロール、ストールターン、背面飛行、背風着陸