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「飛行機」「なぜ」「飛ぶ」「ベルヌーイ」
ベルヌーイでは飛ばない!
この記事を書こうかどうか迷いました。
というのは、「これは間違いです」と書いても、読んだ人は「間違いである」という言葉は忘れてしまい、そこに書いてあったことだけが頭に残るからです。
しかし、都市伝説のごとく、あるいは迷信のごとく、あまりにも世の中に浸透してしまっているので、あえて書くことにしました。
どこがおかしいか指摘して、ほんとうの答えに結びつけていきたいと思います。
重ねていいます。
間違いです!
そもそもベルヌーイの定理って何?
「流体は流れが速くなると圧力が低くなる」
流体とは、水や空気のようなものです。
これは正しいです。
じっさいに「ベンチュリ管」のようにこの原理を応用したものが使われています。
だから、ベルヌーイさんが悪いわけでもありません。
問題はこの定理を飛行機に当てはめようとすることです。
飛行機は、みなさんご存知のように鉄の塊で、空気とは訳がちがいます。
ベンチュリ管は空気を吸い上げるけど、とても鉄の塊を持ち上げる力はありません!
世間にまかり通っている揚力発生の説明 (これは間違いです)
ベルヌーイの定理を使った説明はだいたいこんな感じです。
くどいけど、これから説明することは間違いです(^_^;)
その後の説明で、それが間違いだということはすぐわかります。
そして、むずかしい飛行理論より、あなたの直感のほうがよほど信用できるということがわかります。
- まず、かならず上がふくらんでいて、下が「真っ平らな」翼型が使われます。
- 迎え角は0です。 (迎え角については後で説明します)
- 翼の前で上下に分かれた空気は、翼の後ろでかならず同じ時間で元に戻るという説明 (「同時性の原理」などと呼ばれます。じっさいには一緒にはなりません)
- 翼の上のほうが長いので、同時に翼の後ろにたどり着くには、翼の上のほうが空気が速く流れなくてはいけないという理屈。じっさいには上下の空気は同時に後ろにたどり着きません。
- ベルヌーイの定理から、空気の流れの速い翼の上のほうが圧力が下がって、翼が上に吸い上げられるといいます。
この理屈のおかしなところ、そもそも「事実とちがう」前提を使っているところ
まず、翼型ですがだいたい上がふくらんでるけど、下が真っ平らな翼型なんてまずありません。
近年使われている一般的な翼は、下もふくらんでいます。
この手の説明でよくある絵
実際の翼型
下が真っ平らな翼もあるにはあります。
でも、最近ではまず使われることはありません。
層流翼
むかしはわりと使われました。
完全対称翼
アクロバットするとき、逆さまになっても同じように飛べるように、上下が完全に対象になっています。
この時点で、ベルヌーイの定理は応用できないですね(^^)
火の玉翼
上の完全対称翼がさらに進化して、火の玉のような形をしてることからこう呼ばれます。
アクロバット機用です。
もちろんベルヌーイの定理は通用しません。
背面飛行
おおーっ!
すでに上下が逆転してます!
これでも飛行機は飛びます。
下の動画はじっさいにおじさんがASK21で「背面飛行」をしたところです。
ハーフ・ロールから背面飛行に入ります。
操縦席の中の映像はこちら↓
地面が頭の上のほうに行きます。
超音速機
超音速になると、衝撃波の影響を抑えるためこんな菱形の翼もあります。
パラグライダー
前から空気を取り込んでふくらむので、ほぼこんな感じです。
上下の差はほとんどないと言っていいでしょう。
ハンググライダー
前縁に骨となる金属のパイプがあって、あとはほぼ平らな生地です。
ベルヌーイの定理は使えませんね。
でも、飛びますよ。
中には滑空比20なんて高性能機もあります。
1メートル下がる間に20メートル進めるという意味です。
高度が1メートルあれば、20メートル飛べるということです。
模型飛行機
もう、完全に上下、同じ長さです(^^)
紙飛行機
究極の真っ平らです。
ベルヌーイの定理は働きません。
でも、飛びます。
フリスビー
もうなんと言おうか(^_^;)
凧
上下の長さは同じどころか、ひっくり返っちゃってます。
でも、飛びます。
というか風を受けて、空高く舞い上がります。
みんな紙飛行機や凧はよく知ってる
それでも「お偉いさん」がたは言い張ります。
もう、言い訳のしようがないじゃないですか?
もうこんなの、ベルヌーイの定理じゃ説明できないですよね(^^)
これはプロペラの推力と、胴体の横っ腹の空気抵抗で飛んでるんですよ✌
おむすび型の翼
笑っちゃうでしょ。
でも、もしベルヌーイの定理で飛行機が浮くとしたら、上面は下面の2倍の長さがないと揚力が発生しないんです。
航空力学の知識がなくても、これでは空気抵抗の塊で飛ばないことはみんなわかります。
そもそも、こんな翼、見たことないですよね。
離陸速度が640km/h !?
もしベルヌーイの定理による力だけで地面から離れるには、セスナ172だと時速640キロは必要だという計算になってしまいます。
実際には100km/hほどです。
もっというと、失速速度は85km/hなので、85km/hあればなんとか浮かぶんです。
同時性の原理について
前縁 (翼の前) で分かれた空気は同時に後縁にたどり着くどころか、じっさいには上面の空気は加速されて、上面のほうが先に後縁にたどり着きます!
この辺のことは航空力学を学んだ人なら知っています。
テレビ、ユーチューブのインチキ実験
ユーチューブにはベルヌーイの定理で飛行機が飛ぶようなインチキ実験動画があふれています。
教育関係のテレビ番組でさえ、このインチキ実験を平気で流しています。
ベルヌーイの定理で飛ぶには、迎え角は “0” で行わなければなりません。
なのに、かならず迎え角をつけています。
もちろんそのことには触れません(^^)
某教育テレビ番組では、迎え角が45°くらいついてて笑っちゃいました。
迎え角 (むかえかく)
厳密には、地面と翼ではなく、翼が進む方向と翼弦 (翼の前縁と後縁を結んだ線) の角度です。
翼のまわりの空気の流れ
インチキ実験は軽い材料で羽根だけ
しかもこうした実験は発泡スチロールとか、竹ひごに紙やセロファンを貼っただけのものです。
本物の飛行機は胴体もついていて、貨物も人も燃料も乗っている、鋼鉄の塊です!
それから飛行機のパイロットはもちろん、模型飛行機、ラジコンなどをやっている人ならみんな知ってる「操縦桿を引く (機首を上げる) と飛行機は上昇する」というごく当たりまえの事実があります。
ベルヌーイの定理だけで飛行機が浮いたり、下がったりするなら、どうやって飛行機を操縦するのでしょうね?
なんで、操縦桿や舵がついてるの?
ということで
迎え角
に行きましょう!
飛行機はなぜ飛ぶか? ~「迎え角」と「コアンダ効果」につづく!
「コアンダ効果」~ボールが水や空気にひっつく!
動画ギャラリー (アクロバット)
おじさんがじっさいにASK21というグライダーでやったアクロバットの動画です。
見よう見まねでソロでやらないように。
かならずアクロバットのインストラクターと同乗の上、指示に従ってやってくださいね✌
グライダーのローパスから着陸
地上から撮影。
グライダーはエンジンがないので位置エネルギーを運動エネルギーに変えて速度を増し、ふたたび操縦桿を引いて「迎え角」を大きくして、今度は運動エネルギー (速度) を位置エネルギーに変えます。
つまり、高度を上げることができます。代わりに、速度は減っていきます。
高度100mくらいから地面に突き刺さるくらい機首を下げて加速します。
グライダーは取付角 (翼と胴体の取り付けの角度) が大きいので操縦席から見るとほんとに地面に突っこむ感じがします。
進入速度はおよそ200km/h。
上昇して120km/hくらいまで減速してから180°回ります。
最終進入速度は90km/h。
上昇して速度を抜く理由は2つ。
1つは、高度を稼いで旋回するときに翼端が地面に引っかからないようにするためです。
もう1つは、速度が速いと旋回半径がとても大きくなってしまうからです。
車やバイクに乗ってる人ならわかりますね。
速度を落としたほうが小回りが利くんです。
上のローパスを曳航機から撮影したもの
エンジン音が大きいのでボリュームを下げてくださいね=^^=
雪の上の白いグライダーは見にくいかもしれないけど、とても美しいです。
幻想的でさえあります。
さらに上のローパスを操縦席でも撮影していました!
外から見るとグライダーはとても優雅ですが、中は大忙しです(^^)
地面効果 (じめんこうか)
ローパスする理由
見た目にインパクトがあるから。
操縦が楽しいから。
でも、もっと重要な意味があります。
「迎え角」で飛ぶ飛行機は揚力を得るとともに、「空気抵抗」も受けていていつもブレーキがかけられています。
だから上昇したり、水平飛行するためにはエンジンなどの「動力」が必要です。
車や自転車も、惰性だけではいつか止まってしまいますよね。
紙飛行機やグライダーのように動力がないものは「位置エネルギー」を「運動エネルギー」に変えることで前進しているので、いつも高度を下げ続けて、いつかはかならず地面に下りてきてしまいます。
誘導抗力 (ゆうどうこうりょく)
とくに飛行機の翼は翼端 (翼の端っこ) に起こる渦によって大きな抵抗を受けます。
これを「誘導抗力」といいます。
地面近くを飛ぶと、この渦が地面に邪魔されて大きくならないので「誘導抗力」が小さくなります。
ということは「運動エネルギー」の消費もとても小さくなってより長い時間、飛び続けられるのです。
ここに載せてる動画は訓練のためわざとやっているけど、グライダーでクロスカントリーなどをして着陸場にちょっと届きそうにないときなどはこれを利用するとなんとか届くこともあります。
「運動エネルギー (速度) 」を得るためにかなり頭を突っ込んで「位置エネルギー (高度) 」を一気になくすのは意に反するけど、結果的により遠くまで飛ぶことができます。
地上から。曳航から着陸まで
操縦席から。曳航から着陸まで
操縦席から。宙返り、ロール、ストールターン、背面飛行、背風着陸
飛行機の免許とアクロバット ~ 一覧
ジャイロ効果 ~ 飛行機にかかる力
技術博物館 (ベルリン) ~写真集。本館。飛行機
飛行機はなぜ飛ぶか? ~「迎え角」と「コアンダ効果」