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「受身」「日本語」「英語」
日本語キーボードをインストールしたアメリカ人の生徒がいいました。
先生
「送信します」のボタンを押すと
「送信されました」になります。
おかしくないですか?
これは正しいですか?
するどい!
外国人からツッコまれるとは😅
日本語では受身をつかわない
これは以前この記事で書いたように、日本語ではできるだけ受身をつかいません。
じっさいには受身の場合でさえ受身の形をつかわずに能動態をつかうことがあります。
例:
ワクチンを打つ。 (打つのは先生や看護師さんで、わたしは打たれる)
検査をする。 (検査するのは先生で、わたしは検査される)
虫歯を抜く。 (歯を抜くのは歯医者さんで、わたしは抜かれる)
タイヤ交換をする。 (自分でする場合もあるけど、車屋さんにやってもらっても「する」をつかう)
「痛みがひどくて親知らず抜いたんだ」
なんてよくつかいますね。
これに対して
「えっ?自分で抜いたの?それともだれかに抜かれたの?」
とツッコむ人はいません。
いずれも、ワクチンを打たれる。検査される。虫歯を抜かれる。タイヤ交換をされる。
とはいいません。
もしつかうのであれば「やりもらい表現」をつかって、
ワクチンを打ってもらう。タイヤ交換してもらう。
のようにいいます。
「ワクチンを打たれる」というと、
自分は打ってもらいたくないのに、むりやり押さえつけられて、打たれて、まるで拷問のようだったという意味合いになってしまいます😄
日本語では受身をつかうのはほとんどの場合「迷惑の受身」です。
英語の直訳
昨今、日本語で「受身」の表現をよく見るようになったのはひとえに「英語の直訳」のせいだと思います。
とくにパソコン関係に多いですね。
いちばんはじめに出した生徒の質問の例を見ると、
「送信する」の隠れた主語は「私」です。
それに対して
「送信される」の隠れた主語は「メッセージ」や「登録依頼」などです。
今までのふつうの日本語であれば
「送信する」→「送信した」です。
どちらも主語は「私」、あるいは「送信した」のは、サイトの運営者や機械かもしれません。
いずれにせよ、「する」→「した」です。
「送信されました」という受身の形から想像されるのは
“Your message was sent.”
というもとの英文です。
機械翻訳と日本語を知らない翻訳家
最近ではほとんどが機械翻訳でしょう。
英語で「受身」の形がつかわれているから、日本語でも「受身」の形にする。
文法的にまちがいではないけど、日本語としては不自然です。
責任回避
上でもあえて「想像される」と書きました。
物を主語にして受身にすると、そこに「人間が存在しない」ので、人の故意ではない、私には責任がない、世間の人がそう思っているというような「責任回避」ができます。
英語では能動態でも they または we をつかって、これは「私」の考えではなく、世間一般の考えであるという雰囲気を醸し出します。
日本語の「みんなそう言ってる」「みんなそうしてる」に似ていますね😄
ほんとは「私だけ」なんだけど。
日本語を知らない翻訳家
どこの言葉もそうですが、一対一では変換できません。
文法もちがえば、文化・習慣のちがいで、そもそも「この国ではそういう言いかたをしない」文章もたくさんあります。
そのときに、日本語に翻訳するなら「日本ではどのように言うか?」を考えなければなりません。
たとえば
many people は「多くの人々」と訳されますが、
自然な日本語では「人がたくさん」と言います (言われます?) 。
five red pencils は「5本の赤い鉛筆」ではなく
「赤い鉛筆が、5本」といいます。
One of the most (最大のうちの1つ) もそうです。
日本語では「最大」は1つしかありません。
この場合は「世界有数の」「世界でも指折りの」「世界で5本の指にはいる」「世界屈指の」などの言葉をつかいます。
これらをまるで機械翻訳のように、前から順番に単語を日本語に入れ替えるだけの翻訳が日本語をおかしくしています。
「省略します」→「省略されます」
「思います」→「思われます」
「登録しました」→「登録されました」
のような表現があふれかえっています。
後ろに「わしゃ知らんけど」がつきます。
じっさいのところおじさんもつかいます。
責任回避ですね😅
はじめは「おかしい」「変」と感じていたのが、日常的にこの言い回しにさらされることで、だんだん慣れてきてしまいます。
日本人が
「きのう、病院でワクチンを打たれました」
といいはじめる日もそう遠くないかもしれません😄
わたしは日本語教師をしています
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