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「黙字」「読まない」「書く」「もともとは読んだ」「あとからつけ足し」
黙字 (もくじ) ~ “night” ~ なんで”gh”は読まないの?
night ~ なんで「ナイト」なの?
英語を習いはじめたときにただでさえ覚えるのが大変なのに、変な単語が出てきましたね。
「なんで読まないの?」
「読まないのになんで書くの?」
gh
その代表がnight。
ghは読みません。
laugh (ラフ)、tough (タフ) のように、「フ」と発音する場合もあります。
k
knight、know、kneeのようにnの前のkは読みません。
黙字 (もくじ)
これを黙字といいます。
読まないなら書かなければいいのに。
じつは英語だけではなくヨーロッパの言葉には「読まないのに書かなければならない」字がけっこうあります。
英語だけしか習わないとわからないけど、ほかのヨーロッパの言葉を勉強すると見えてくることがあります。
むかしは読んでいた!
そうです。
ただの気まぐれで書いてあるのではなく、もともとは読んでいたのです。
それが、いつのころからか読まなくなったけど、文字だけは生き残ったのです。
ドイツ語との関係
ドイツ語と英語はおなじゲルマン系の言葉です。
ただ、これらはあくまで兄弟で、親子ではありません。
どちらが正しいとか、どちらが先にできたということではないので誤解のないように。
印欧祖語 (いんおうそご)
もっというとヨーロッパの言葉は「印欧祖語」という1つの言葉から枝分かれしたもので、親は1人。
ヨーロッパの言葉はみんな兄弟、あるいは子孫です。
ドイツ語に痕跡が!
話をドイツ語と英語にもどしましょう。
おなじ意味の単語を英語、ドイツ語の順で書いてみます。
night ナイト/Nacht ナハト。夜。ラテン語 nox ノクス。ギリシャ語 nýx ニュクス。スペイン語 noche ノーチェ。ポルトガル語 noite ノイチ。
knight ナイト/Knecht クネヒト。騎士 (ナイト)
right ライト/richtig リヒティヒ。正しい
light ライト/leicht ライヒト。軽い
laugh ラフ/lachen ラヘン。笑う
know ノウ/kennen ケネン。知る
ちなみにあとからフランス語経由ではいってきたnocturne (ノクターン。夜想曲) にはc (ク) の音がちゃんとはいっています。
英語のghが、ドイツ語ではchになって、「ハヒヘホ」のように発音しています。
kも律儀に読んでいます。
英語を習いはじめたとき、よくローマ字読みなんて笑われたけど、ローマ字読みのほうがふつうで英語のほうがおかしいんです。
knightでナイトというほうがよほど変です。
ただ、ドイツ語が英語になったわけではないのでそこはおまちがいなく。
ドイツ語も今のドイツ語とはちがうゲルマン語からできた言葉です。
そして、ゲルマン語ももとをたどれば「印欧祖語」です。
gnosis (知ること)
古代ギリシャ語でgnôsis (知ること) は、
ラテン語ではすでにgnōscō (知る) からnōscōにかわり、語頭のgがなくなっています。
英語ではおかしなことに文字はgnosisとgを残しながら、発音はnosis (ノーシス) です。
英語での意味は「霊的認識」
語中ではgを発音します。
みなさんよくご存知のこんな単語がありますが、みな「知る」に関係することばです。
dia-gnosis ダイアグノーシス。診断。
i-gnore イグノア。無視する。
reco-gnize レコグナイズ。 (再) 認識する。
「-」の位置はじっさいのハイフネーションとはちがいます。
英語のcan (できる) もknowと同じ語源です!
もとは「知る」という意味だったんです!
ほかの黙字
p (ギリシャ語)
ギリシャ語起源の語頭のpは読みません。
psyche プシュケー。キューピッドが愛した美少女。英語では「サイキ」。魂に関係する言葉につかわれます。
psychokinesis サイコキネシス。念動力。
psychopath サイコパス。反社会的、暴力的な精神病患者。
pseudonym スードニム。ペンネーム、筆名。
pneumonia ニューモニア。肺炎。
pteranodon プテラノドン (翼竜)。英語ではテラノドン。
おなじpter (羽) でもhelico-pter (ヘリコプター) のように語中のpは発音します。
そもそもギリシャ文字のψ (プシー、プサイ) は英語では「サイ」
p (ラテン語) あとでつけ足し
receipt と reception
どちらもreceive (受け取る) の名詞ですが、
receiptはレシートでpを読まないのに、
receptionはレセプションでpを読みます。
古いフランス語からはいってきたときはreceiteとpがはいってなかったんだけど、もとになるラテン語ではreceptiōとpがはいっているので、
「pを書かなきゃまずいんじゃね?」というおせっかいな人がpを入れてしまったんですね。
でも、読みません。
きっと知ったかぶりした連中が「えっ?pを入れないなんて学がないね! 」とか「遅れてるね! 」とかいって一般大衆をあおりたてたんでしょう。
「裸の王様」効果で、pを入れないとバカだと思われるのではないかと「やっぱりp要るよね」と、さも知っていたかのような口ぶりでみなさん入れたのでしょう。
でも、入れたんなら「レシープト」とか「レセプト」とかpを発音しましょうよ。
入れかわり
s
island アイランド。島。
なんでsがはいっているのか?
古い英語ではiglandでした。
「ig」は「水」のことなので、ラテン語のīnsulaとは語源がちがいます。
あとから古いフランス語のisle (<ラ īnsula) がはいってきて「えっ?gじゃなくてsじゃね?」というよけいな気を回した人がいたせいでislandになってしまいました。
isle (アイル) は英語として残っているけど、本家フランス語のほうはsがなくなってîle (イル) になってしまいました😄
いまさらフランスに合わせてilandにするのも癪だし、しばらくはislandで行くのでしょう。
イギリスやアメリカの子どもは聞くにちがいありません。
いや、英語を学ぶすべての人が。
「なんでsを書くの?なんで読まないの?」
「むかしからそうなんだから、つべこべいわず覚えなさい! 」
「…」
何百年かたったら「読まないのにsがはいってるのおかしくね?しかもフランスのマネだし! 」という人が現れて、islandはilandになるかもしれません。
「まだislandつかってるの?」
「ilandでしょ! 」
というような謳い文句に人々はいともたやすく流されるのです😄
天王洲アイル
羽田空港の近くに「天王洲アイル」という駅がありますが「島」という意味です。
ほんとに島です。
ちなみに「天王」は海から牛頭天王の面が出てきたことからつけられた地名です。
b
comb コーム。櫛。
tomb トゥーム。墓。
climb クライム。登る。
n
autumn オータム。秋。
column カラム (コラム) 。
-istがついてcolomnistになると、コラムニストとnを発音します。
g (フランス訛り)
sign
サイン。合図、署名
フランス語ではgnを「ニャ行」で発音します。
そもそもラテン語ではsīgnō (スィーグノー) とgを発音するので、フランス語が訛ってるんです。
英語では発音だけnにして、gという文字はそのまま残したんですね。
そのくせ、その派生語では読んじゃうんですよね😄
signal シグナル。信号
signature シグニチャー。署名
むしろこちらのほうが正道です。
siも「サイ」といったり、「シ」といったり、英語はほんとに流されやすく、一貫性がありません💦
reign
レイン。君臨する。支配する。
こちらもフランス語ではrègne (レニュ) 。
これも英語にはいるとき発音はフランス語にならいgは読まず、文字だけ残したんですね。
もとのラテン語はrēgnō (レーグノー) 。
gをしっかり読みます。
g (あとでつけ足し)
foreign
外国の。
これにいたっては、古いフランス語forainでも、ラテン語の俗語forānusでもgはありません。
まさかのreignにつられて、つけちゃった! ようです😄
ほかの国の黙字
ロマンス語
ラテン語の現代語であるロマンス語は、おもにスペイン、イタリア、ポルトガル、フランス、ルーマニアの5カ国をさします。
ルーマニアの語源じたいが「ローマニア」です。
「ローマの国」という意味です。
「ルーマニア」は英語のRumaniaの読みかたで、「ルーマニア」本国の人は「ロムニア」といってます。
もともとのラテン語ではhを発音していたんだけど、その子孫のロマンス語ではhを発音しません。
たとえば英語のtheater (イギリスではtheatreと書く)
これはフランス語のthéâtre (テアートル) を取りこんだもので、さらにスペインではteatro (テアトロ) で、文字からもhが消えています。
フランス語
フランス語はヨーロッパの中でも訛りが強く、英語よりさらに厄介です。
語尾のr, s, tなど子音は読まないと思ったほうがいいです。
croissant クルワソーン。日本ではクロワッサンといいますね。
c’est セ。英語のit’sに相当します。
petit プチ。小さい。
lait レ。牛乳。カフェ・オ・レのレです。
Charles Perrault シャルル・ペロー。童話作家。日本語表記からフランス語のつづりを想像できる人はまずいないでしょう😄
英語にも
英語の単語の45%はなんとフランス語です!
ロマンス語 (英語とラテン語の関係)その1~ノルマン・コンクエスト
なのでフランス語の影響を受けてhを読まないものがあります。
honest オネスト。正直な。
honor オナー。名誉。
honorable オナラブル。名誉ある。
正書法 (せいしょほう)
読まなくなったのに書くのはおかしいと思うのは日本人だけではなく、その言葉を母語とする人もそうで、
「読まない字は削除して読みかたどおりに書こうよ」
という動きがあります。
そして、その書きかたを「正書法」といいます。
ただ、それが一般的に受け入れられたものと、そうではなく一部の人がかってに使ってるだけのものがあります。
正書法の例
enough→enuf (イナフ)
まあ、eをi、uをaと発音するのも変なんだけど。
どうせならinafにしてくれないかな😄
イギリス式とアメリカ式でちがうものもあります。
-reはフランス語の綴り。
アメリカでは-erと表記するようになりました。
theatre→theater
centre→center
でも、areはそのままで、aerにはなりません。
aero-をエアロというのもおかしいんですけどね。
ほかのヨーロッパではアエロと発音します。
aerobatics 飛行機のアクロバット
英語。エアロバティクス
ほかのヨーロッパ。アエロバティクス
正書法についてはこちらにも。
AshiGirl 「アシガール」の考察~「未来少年コナン」との共通点~時間旅行~ひげおじさんのつぶやき
日本語でも
旧仮名遣い (きゅうかなづかい)
会う。あふ→あう
蝶。てふ→ちょう
今日。けふ→きょう
醤油。せうゆ→しょうゆ
上。うへ→うえ
岩。いは→いわ
旧仮名遣い。きうかなづかひ→きゅうかなづかい
黙字についてはこちらにも
super (スーパー) と hyper (ハイパー) どっちがすごいのか!?
英語の単語は丸暗記しなければいけないから覚えるのが大変? そんなことはないよ!
わたしは日本語教師をしています
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表示名はToshiです。
こちらでは初めましてです(^-^)/
読まない字を黙字って言うんですね。
英語でoftenはオフンと言うのもそうでしょうか。イギリス人でたまにオフトゥンと言う人もいるので、発音が面倒で省略して黙字になるのかと思いきや、いろんな語源があったんですね〜。
さすがひげおじさん、勉強になります!(^o^)
コメントありがとうございます!
励みになります=^^=
oftenは辞書にはオフトゥンとオフン、2とおりの表記があるけどじっさいにオフトゥンは聞いたことはありません。
ヨーロッパの言葉でもフランス語と、その単語を引き継ぐ英語は訛りが強くて、まためんどくさくて読まなくなった音が多いですね。
どこの国でも (日本語でも) そうですが、地域、個人によってもみな発音がちがうので「これが絶対正しい! 」という発音はなくて、「いちばん多い発音は今のところこれだよね」くらいのところです。
わたしもアメリカに行って、現地のネイティブが「この人は辞書の発音記号ともちがうしアクセントの位置もちがう! 」と思ったけど、日本人でもおなじです
東と西ではほとんどの言葉でイントネーションがちがいます。
また日本語でも「している」というのか「してる」というのか分かれるところで、私自身も時によって変わります。
「やはり」→「やっぱり」→「やっぱし」→「やっぱ」なんていう変化もあるけど、日本語の場合はそのとおり書きますね。
日本語では読まないのに書くというのはなくて、強いて言うなら「っ」だけどこれは記号であって黙字とはちがいます。
時代とともに読まれなくなっていって、大方の人が読まなくなると「黙字」と呼ばれ、そのうち文字自体も消えていきます。
またコメントくださいm(_ _)m