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「口蓋化」「舌の位置」「各国語」
できれば口の中の舌の位置を想像して発音しながら読んでください。
口蓋化 (こうがいか)
口蓋とは「口の天井」のことです。
口の真ん中へんの硬いところは「硬口蓋」といい、
口の奥の喉に近いところは軟かいので「軟口蓋」といいます。
英語ではこういいます。
palate 口蓋
palatal 口蓋の
palatalize 口蓋化する
palatalization 口蓋化
日本語の「イ段」は特殊
「さしすせそ」
ローマ字で書くと
sa shi su se so
「ざじずぜぞ」は
za ji zu ze zo
「たちつてと」は
ta chi tsu te to
「だぢづでど」は
da ji zu de do
「ts」は無声歯茎破擦音
「t」は無声歯茎破裂音
ですがここでは説明しません。
じ、ぢ
現代仮名遣いでは「鼻血 (はなぢ) 」のように「血 (ち) 」が濁ったもの以外は「じ」と書くことになっていますが、日本人の発音は「ぢ」です。
とくに語頭では「じ」と書いてあっても「ぢ」と発音しています。
[ʒ]が舌をつけずにすき間から出す音に対して、
[dʒ]は舌を口蓋につけてから破裂させて出します。
ず、づ
「ず」も「づ」も厳密には[z]ではなく、[dz]です。
[z]が舌をつけずにすき間から出す音に対して、
[dz]は舌を口蓋につけてから破裂させて出します。
国語分科会 (以前の国語審議会) では、できるだけ「ず」と書かせるようにしています。
「ちかづく」のように、「近」+「付く (つく) 」からつくられた言葉は「づ」をつかうことを認めていますが、
「頷く」は「項 (うな。うなじ。首の後ろ) 」+「突く (つく) 」にもかかわらず「うなずく」と書かなければなりません。
「額づく」も本来、「額突く (ぬかつく) 」なのに「ず」と書かなければなりません。
しっかりしろよ!国語分科会!
また、こんな表記を国語のテストに出す教師は最低です。
ローマ字
「ダ行」の「ヂ」なのに「di」ではなく「ji」をつかう、妙なヘボン式のローマ字表記についてはまた別の記事で書きたいと思います。
「si」だと「スィ」
「ti」だと「ティ」
という発音になります。
sitを「シット」と発音してしまうとshit💩という意味になってしまいます!
ローマ字を習ったときにはじめて
「日本語って変?」
と思ったかもしれません。
hは口蓋音 (拗音) の記号としてつかわれる
ほんらいの「h」の発音とはまったく関係なく、しばしば口蓋音の印としてつかわれます。
shi, chiは言わずもがな。
ポルトガル語の「nh」は「ニャ ニ ニュ ニェ ニョ」になります。
manhã (マニャン。朝) など。
ローマ字表記はふつうだがじつは口蓋化してるもの
「なにぬねの」
「に」は「ni」と書きますが
厳密には[ɲ]、
もっと厳密には[nʲ]で
[ni]とは異なります。
欧米人に発音させると「ぬぃ」というような発音になります。
詳しくはこちら↓
「はひふへほ」
これも「hi」と書きますが、
厳密には[ç]で口蓋化しています。
じつはこれ、ドイツ語の「ch」の発音とおなじなんです!
Ich liebe dich.
「i」の後ろに来る「ch」です。
「hi」より舌が口蓋に近づいて狭いすき間から通る空気の音が聞こえます。
じつは珍しくない
日本語のイ段は特殊と書きましたが、じつは珍しくないんです。
日本語だけでなくヨーロッパの言語も「イ段」と「エ段」は口蓋化または別の子音に変わる傾向にあります。
何語でも口蓋化は起きやすい
「i (イ) 」はもともと舌を口蓋に近づけて出す音だから
舌の位置を想像してください。
「ア」が口を大きく開いて、舌も下げて出す音に引き換え、
「イ」は口を横に開くこともさりながら、いちばん重要なのは舌を口蓋に近づけてすき間を狭くすることにあります。
だから、じっさいには口の形はあまり関係なく、口を横に開かなくても「ア」の形のまま舌を上に上げれば「イ」の音が出せます。
極端な話、口をとがらせても「イ」は発音できます。
これは読むだけではなくてじっさいに「やってみてくださいね」✌
口の形は関係ない
だって、しょうがないじゃないか
これを、口を横に広げて (エの口の形) 笑顔のままと、口をとがらせた (ウの口の形) ままでそれぞれ言ってみてください。
口を動かさなくても言えることがわかります。
腹話術師はこれをやっているんですね。
女の人には天然腹話術師が多いです。
気持ち悪いです。
口を動かしてしゃべってください😅
「イ」は「舌を口蓋に近づけて出す」ため、子音も道連れで「口蓋化」する運命にあります。
「e (エ) 」も
「エ」は「ア」と「イ」の中間の音。
舌は口の中間にあります。
この音も少なからず変化する傾向があります。
各国語の例
ドイツ語
「イ」「エ」の後ろの「ch」は「ç (ヒ) 」になります。
日本語とほとんどおなじ「ヒ」です。
ich イッヒ [ihi]ではなく[iç]です。
Mädchen メート゜ヒェン
「ト゜」は「t (トゥ) 」です。
ach, uch, ochは[x]になるんだけどここでは説明しません。
スペイン語
ca ci cu ce co
カ スィ ク セ コ
ciは[θi]、ceは[θe] 英語の「th」とおなじ発音です。
じゃあ「キ」「ケ」はどう書くの?
qui, que
qui (キ) 、que (ケ) と書きます。
これらはあくまで「キ」「ケ」であって、
「クィ」「クェ」ではありません。
ga gi gu ge go
ガ ヒ グ ヘ ゴ
gitano ヒターノ (ジプシー)
general へネラル (英語のジェネラル)
「ギ」は「gui」
「ゲ」は「gue」
と書きます。
guitar ギター
guerra ゲラ (戦争)
これも「グィ」「グェ」ではないので注意。
素直に「ギ」「ゲ」です。
イタリア語
ca ci cu ce co
カ チ ク チェ コ
città チッタ (英語のcity)
cèntro チェント゜ロ (英語のcenter)
dolce ドルチェ (甘い。スペイン語のdulce ドゥルセ)
ch
「キ」は「chi」
「ケ」は「che」
archìvio アルキヴィオ (英語のarchive)
archeologia アルケオロジア (英語のarcheology)
英語でも「チ」ではなく「アーカイブ」とか「アーキオロジー」とかいうのはおかしいと思った人もたくさんいると思うけど、おかしくないんです。
ga gi gu ge go
ガ ジ グ ジェ ゴ
giórno ジョルノ (日)
gelato ジェラート (凍った→アイスクリーム)
「ギ」は「ghi」
「ゲ」は「ghe」
Lamborghini ランボルギーニ
spaghétti スパゲッティ
ポルトガル語
ca ci cu ce co
カ スィ ク セ コ
cidade スィダーヂ (英語のcity)
centro セント゜ロ (英語のcenter)
qui, que
スペイン語とおなじく「キ」「ケ」ですが、
「que」は「キ」と発音することもあります。
química キミカ (英語のchemistry)
que キー (スペイン語のquéとおなじ。英語のwhat)
ta ti tu te to
タ チ ト゜テ/チ ト
ti チ (君)
teste テスチ (英語のtest) 語頭は「テ」と発音します。
da di du de do
ダ ヂ ドゥ デ/ヂ ド
dia ヂーア (日)
saudade サウダーヂ (さびしさ)
decidir デスィヂール (英語のdecide) 語頭は「デ」と発音します。
ch (シ)
choro ショーロ
フランス語
ca ci cu ce co
カ スィ キュ セ/ス コ
merci メフシ (英語のmercyに相当)
r
フランス語、ポルトガル語、ドイツ語では「うがい音」になることがあります。
ならないことも。
これがややこしい。
じつは英語でも口蓋化は起きる!
s → ʃ
sit (座る) をシットと発音してしまうとshit💩になってしまいます。
また、see, sea と she もちゃんと発音しないと意味が変わってしまいます。
ただ、じっさいには文脈でどちらかわかるものですが。
I see the sea.
を、「あいしーざしー」と発音しても、sheでないことはわかります。
ただ、「こいつ訛ってんな~」と思われるだけです。
千年女王の歌詞でeverything she seesというフレーズがあるんだけどth→sh→sでとても歌いにくいです😅
でも、英語のネイティブでもs[s]が口蓋化して[ʃ]になることがあります。
やはり、うしろに「イ」の音が来ると起きやすいですが、tの前、つまりstのときに[ʃt (シュト゜) 」になる傾向があります。
これはもしかするとドイツ系の人の訛りかもしれないけど、もちろんかならずそう発音するのではなくて、そう発音されることがときどきあるということです。
ちなみにこれを聞くのはVOA learning Englishなので、そこそこちゃんとした人が話しているはずです。
例:)
前後の歯茎音、硬口蓋音に釣られるパターン
・[st]→[ʃt]
strike シュト゜ライク
extra エクシュト゜ラ
extreme エクシュト゜リーム
このパターンはとても多いのでぜんぶ書きません。
・直前に口蓋音があるため
English speaker イングリッシュピーカー
・前後どちらかに[n]があるため ([n]も口蓋音)
researchers note リサーチャージ ノウト゜
sponsor スポンシャー (直前のnが口蓋音のため直後のsが口蓋化。これも頭のspは[ʃ]にならない。ドイツ語ではspは[ʃp]になる)
・前後のiに釣られるパターン
this year ディシイアー (thの音もdになることがある)
six year スィクシイアー (面白いのはsixのsi[si]はshi[ʃi]にならないこと)
fix you フィクシュー
これらは前後に[i, j]があるのでよけいなりやすいか。
describe ディシュクライブ (前のiに引きずられて)
history ヒシュトリー (前のiに引きずられて+後ろのt)
destroy ディシュト゜ロイ (上におなじ)
last year ラシュティアー
as you アジュユー
・その他
Anniversary アニバーシュリー
Sri Lanka シュリランカ。そもそも英語には「sr」という音の接続はなく特殊な音だからかもしれません。
t → tʃ, ts
team チーム
ティームではなく、チームです。
NHKのアナウンサーがいちいちティームと発音するのがバカバカしくなります。
built in ビルツイン (ビルト゜インでもなく、ビルティンでもない)
日本人でも「噛む」ということがありますね。
ネイティブでも舌の動きから発音しにくい音や、前後の調音点 (舌の位置) と調音法 (舌の動かしかた) に影響されます。
たとえば、手術室 (しゅじゅつしつ→しゅじゅちゅしちゅ、すずつすぃつ)
拗音 (しゅ、りょ、など) は発音しにくい部類にはいります。
だから、早口言葉は拗音を使ったものが多いです。
東京特許許可局とか
隣の客はよく柿食う客だとか
カエルピョコピョコみピョコピョコみたいに。
dj → dʒ
schedule
もはや日本語にもなっている「スケジュール」
でも、「スケジュール」はアメリカの発音。
イギリスでは「シェデュール」です。
スケジュールは特例で、むしろイギリス音のほうが口蓋化する傾向があります。
duke 公爵
イギリス ジューク [dʒú:k]
アメリカ ドゥーク [dú:k]、デューク [djú:k]
due (to) ~のために
これもdukeとおなじように変化します。
日本語はまともなほう
こうしてみると日本語はまともなほうですね。
「し」が「shi」になるなんて全然OK!
あえて「全然」といいましたよ!
ロマンス語ではイタリア語、スペイン語が正統派。
ポルトガル語はちょっと訛ってて、フランス語はいちばん訛ってます。
ルーマニア語はunknownです。
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