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「通常通り」「沿線沿い」「重複」「逆転」
通常通り (つうじょうどおり)
ニュースでふつうに使われます。
でも、どう見てもおかしいです。
「通」は訓読みで「とおり」、「常」は訓読みで「いつも、つねに」といいます。
「通常」で「いつもどおり」という意味です。
さらにそのうしろに「どおり」がくっついてます。
「いつもどおりどおり」といってるのと同じです(^^)
文字で書くと明らかにおかしいのに、日常会話ではしょっちゅうこういう言葉が使われ、NHKのニュースでさえ使われます。
でも、ひとえに言葉の乱れとか、まちがいとかいえない理由があります。
音読み (漢音) と訓読み (やまとことば)
漢字には、だいたい音読みと訓読みの2種類があります。
中国から漢字がはいってきたときに、
音読み (おんよみ) は、文字と一緒にくっついてきた「中国語」の「読み方、音」で、
訓読み (くんよみ) は、その文字があらわす意味の「やまとことば (日本語) 」に相当する「よみ」を当てたものです。
「通」なら、
中国語の発音が「つう」。
意味から日本語に相当するのが「とおる」とか「とおり」ですね。
中国はとても広いです。地域によっても発音がちがいます。さらに、漢字がはいってきた時代によっても音が変わります。さらにその音を日本人が聞いて発音できる音に変換されています。
一般的な漢字は「漢音 (かんおん) 」と「呉音 (ごおん) 」があり、さらに「唐音 (とうおん) 」「宋音 (そうおん) 」があります。
もちろん現代中国語の発音ではありません。
現代中国語でさえ、標準語とされる北京語と、広東語、台湾語では全然音がちがいます。
みんながよく知ってる「你好」。「こんにちは」という意味ですが、北京語では「ニーハオ」。台湾語では「リーホー」
むかしビビアン・スーが言ってました(^^)
「訓」の訓読みは「よむ」です。つまり、「訓読み」は「よみよみ」といってるんですね(^^)
漢語は同じ意味の漢字を2つ並べることが多いです。
降下、下降、上昇、転倒、確認、学習、習慣、慣習など。
おじさんが知ってるはんいで、もっとも読み方が多い漢字は「下」です。
した、しも、ゲ、カ、おりる (おろす) 、くだる (くだす) 、さがる (さげる) 、もと
しかも「上下」は、「うえした」「じょうげ」「かみしも」と3通りの読み方があります。
音がちがうので、気がつかない!
同じ文字なのに、音読みと訓読みで「音」がちがうので「重複」していても気がつかないんです。
もし、「いつもどおりどおり」といったら、すぐおかしいと気がつくのに、「つうじょうどおり」なら音がちがうので聞いただけではおかしいと思いません。
いちがいに、単なるまちがいと言いきれないのは、音がちがうという理由だけでなく、「通常」が長くつかわれるうちに「とおり」の意味が消えてしまって「通常」で「いつも」という意味になってしまったということもあるようです。
でも、ニュースのテロップに文字で「通常通り」が出てくると気持ち悪いです。
そもそも、まちがいです。
天下のNHKでは、「平常通り」といってました。さすがNHK! と思っていたのに、近年では「通常通り」を使うようになってしまいました。「通常通り」が浸透して市民権を得てしまったといえますが、そこは頑張って「平常通り」を使いつづけてほしかったです。 (2018年現在)
ちなみに本家本元の中国では地域による発音のちがいはあっても、基本的に漢字の読みかたは1つしかないのでこのようなことは起こりません。
1つの文字を何通りにも読むのはおそらく日本だけだと思います。
ちなみに「重複」の読みは「ちょうふく」です。
「じゅうふく」とも読まれますが、これもやがて市民権を得ていくのでしょう。
いろんな例
沿線沿い。そもそも、「線路沿い」を「沿線」というのですが、「えんせんぞい」だとおかしいと思わないんですね。
おなじように「沿岸沿い」もあります。
分類分けする
「種類ごとに分けること」を「分類 (する) 」といいます。
「分類する」「類別する」そのまま「種類ごとに分ける」でいいです。
後で後悔する。後で悔やむことを後悔といいます。
被害を被る。
集団で集まる。1人じゃ集まれないもんねえ😄
骨を骨折する。いわずもがな。
昔話を話す。
食べものを食べる。
朝食・昼食・夕食を食べる。
飲みものを飲む。
学校に登校する。
会社に出社する。
山を下山する。
伝言を伝える。
今年の冬は暖冬でした。
入梅に入る。
残党が残っている。
残響が残る。
名残りが残る。
挙式を挙げる。
頭痛が痛い。
腹が腹痛だ。
今、現存する。
馬から落馬する。
こんな言葉遊びがありました。
「いにしえの昔の武士の侍が、黒い白馬にまたがって、馬から落ちて、落馬して、骨を折って、骨折し、曲がった道をまっすぐと、一人の兵隊ゾロゾロと、前へ前へとバックする」
定着してしまったもの
名詞
日日 (ひにち)
「ひ」が訓、「ニチ」が音です。
これが「ひひ」とか、「ニチニチ」なら「おかしいな? 」と思うのですが、「ひ」と「ニチ」の音がちがうので気にならないんですね。
漢字で書くと気持ち悪いので、ふつうは「日にち」と書きます。
おなじ漢字で「ひび」とも読みます。
こちらは、「日々」と書きます。
出出し (でだし)
これもしゃべっているときは気にならないんだけど、漢字で書こうとしたときに「あれ? 」っと思いますね。
これも気持ち悪いので「出だし」と書きます。
こちらは両方とも「訓読み」です。
縁 (えん) も縁 (ゆかり) もない
「エン」は音読みで漢字とともにはいってきた中国の音、「ゆかり」は訓読みでもともとの日本語です。
さすがに漢字で書くとおかしいので、「ゆかり」はふつう平仮名で書かれます。
「ゆかり」は「所縁」とも書きます。
ちなみに「えにし」という言葉がありますが、やまとことばっぽいけどじつはこれも音読みからできた言葉です。
「エン」+「し (強調) 」→「えにし」です。
御御御付け (おみおつけ)
本来の意味が薄れてしまうと、そこにまた「御」をつけてしまったりするんですね。
御御足 (おみあし) 、御御輿 (お神輿、おみこし) 、御御酒 (お神酒、おみき) などもともと「御」がついていたのに「神」という字に置き換えられたことで、さらに「御」がついてしまったものもあります。
「おご飯」という人もいるけどやめましょう😄
動詞
歌を歌う
歌を歌うことを「歌う」というので、「歌を」は要らないんだけど、なぜか定着してしまっています。
「歌う」だけで意味が通じます。
「食べものを食べる」とおなじ仲間ですね。
数を数える
これも、数を数えることを「数える」というので、「数を」は要らないんだけど、定着してしまっています。
これも、「数える」だけで充分です。
漢字輸入による犠牲者
労を労う
これは重複というよりむしろ何でもかんでもやまとことばに漢字を当てはめた結果、起きてしまった犠牲といったほうがいいかもしれません。
もともと、やまとことばに「ねぎらう」「いたわる」という言葉があり、中国から漢字がはいってきたときに「労」という漢字を押しつけました。
その結果、おなじ漢字で意味もほぼおなじなのに「労う (ねぎらう) 」と「労る (いたわる) 」という奇妙なセットができてしまいました。
「労 (ロウ) 」は「苦労する」「骨を折る」ことです。
「ねぎらう」はそれに対して「よくやったね」「大変だったね」と感謝したり、褒めたり、相手の苦労を思いやることです。
「いたわる」もおなじ意味があるのですが、現在では「怪我したところをいたわる」のように弱い人や、物をやさしく包みあるいは手当てする意味でつかわれます。
これももし「労 (ロウ) を労 (ロウ) する」だったらおかしいと思うんだけど「ろうを、ねぎらう」だと聞いてるかぎりはおかしいと思わないんですね。
気づかないんです。
でも、文字で書くと変です。
「従業員の労を労う」なら「従業員の働きを労う」などといえばいいんです。
あるいは「従業員を労う」でいいんですね。
「ねぎらう」は「犒う」とも書きます。
指を指す
これもやまとことばの「さす」は1つです。
それを差す、指す、刺す、挿す、射す、注す、点すなどと書き分けるようにしたために起きた犠牲者の1人です😄
これらの言葉に共通することは何でしょうか?
「細くて尖ったもので一点を示すか、その場所に作用する」という意味です。
「指をさす」ときは「差す」という漢字で逃げたりしますが、もとのやまとことばは1つです。
注射という熟語があるように、この意味は「さすさす」ですね😄
意味が180度変わってしまうもの
防火を防ぐ。
防腐を防ぐ。
熟語が別の意味を持ったため、間違いとはいえないもの
・犯罪を犯す。
そもそも「罪」を「犯す」ことを「犯罪」というのですが、「罪」が道徳的なものにいうのに対して、「犯罪」は「法律上の罪」という意味を持つようになったので、まちがいではありません。
・前線の前、後ろ
気象でつかわれるcold front (寒冷前線) などの「前線」は「気団の境目」という意味なので、「前線」の「前」や「後ろ」があります。
「寒冷前線の前では激しい上昇気流のため、積乱雲が発達します」などといいます。
・着物を着る
「着物」が「着る物」ではなく「和服」という意味に限定され、定着してしまったのでしかたありません💦
・飲み物を飲む
これも「コーヒーを飲む」「お茶を飲む」「酒を飲む」なら問題ないんだけど、「飲み物」が「飲むもの全般を指す」言葉になってしまったのでやむを得ません=^^=
じゃあ飲みもの以外に飲むものがあるのかというと、
「薬を飲む」
「相手の要求を飲む」
などがあります。
おなじ仲間に「食べ物を食べる」があります。
・旅行に行く
やまとことばが「たび」に対して、漢語の熟語が「りょこう」で「たび」の意味なので誤用とは言えないですね。
文字にするとちょっともやもやしますが。
「旅に行く / 出る」というとちょっと寂しい雰囲気を醸し出します。
やまとことばの「たび」は1人でよく言えば趣がある、悪い言えば孤独なイメージになってしまいました。
それに対して「りょこう」は楽しい雰囲気があります。
「海外旅行に行く」が「海外に行く」という意味合いが強いので「旅行に行く」という言いかたが定着したのかもしれません。
「旅行 (を) する」なら問題ありません。
・焼き芋を焼く
う~ん。これも苦しい(^_^;)
「芋」を「焼いた」から「焼き芋」になるんだけど、
「芋を焼く」では即物描写で、「焼き芋を焼く」だと「焼き芋」という特定の調理方法による食べものを表すのでいたしかたありません💦
「お湯を沸かす」に近いものがありますね。
英語では「boil the water (水を沸かす) 」というけど、日本語では「お湯を沸かす」で正しいのです!
理屈っぽくいうと「水を沸かした結果、お湯になる」んだけど、日本語では「お湯を沸かす」です!
どの漢字?どれでもいいじゃん!~ やまとことば
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