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「さびしい」「さみしい」
「び」か「み」か?
漢字で「寂しい」とか「淋しい」とか書きます。
あなたは「さびしい」派ですか?
それとも「さみしい」派ですか?
どちらかが正しくてどちらかはまちがいなのでしょうか?
両唇音
「b」と「m」
どちらも両唇音です。
唇を閉じて出す音です。
「b」は破裂音。
閉じたあと唇を破裂させて一気に息を吐き出します。
「m」は鼻音。
唇は閉じたまま、鼻から息を出します。
だから、鼻が詰まっていると鼻から息を出せないので唇から出る破裂音になってしまいます。
「鼻が詰まった (はながつまった) 」を
鼻が詰まってる人が言うと
「はだがつばった」になります
ナ行も鼻音だからです。
山瀬まみ (やませまみ) さんは「やばせばび」になります。
他意はありません。
ということで「b」を破裂させずに鼻から漏らすと「m」に。
「m」を破裂させると「b」になります。
このように「b (バ行) 」と「m (マ行) 」は音声学的にはとても似ているので、しばしば交替や混乱が起きます。
まちがいとは言いきれません。
Japanese phonetic pronunciation 音声学的な発音 ~ 日本語
交替の例
さびしい→さみしい
もともとは「さぶ」で「古くなる」という意味でした。
どの漢字が正しい?
現代日本人はやたらに「これはどの漢字?」「これはまちがい」とまるで魔女狩りか、意地の悪い姑みたいに漢字にこだわり、人の誤用を指摘しては鬼の首でも取ったかのように騒ぎ立てますが、本来、やまとことば (日本語) は1つです。
中国から漢字がはいってきたときにいろんな漢字があったので、この漢字はこの意味に当てようと、ちょっと知ったかぶりの連中が細かく分けてしまったんですね。
もともとの漢字の意味とはちがうのに日本では大手を振っているものもたくさんあります。
中国人が見たら笑ってしまいます。
また使い分けろと言いながら「収納」「習慣」「聴聞」のようにおなじ意味の漢字がニコイチで1つの熟語になってしまっているものもたくさんあります。
この漢字はこんな感じ?なんてこともよくあります。

さぶ (さびる)
ということで「さぶ」は「古くなる」がもともとの「やまとことば (日本語) 」です。
古くなって荒れるという意味でつかうときは「荒ぶ」
古くなって金属が酸化してボロボロになるときは「錆ぶ」
古くなって趣きが出るときは「寂ぶ」
をつかいます。
その連用形を名詞としてつかえば「錆 (さび) 」や「侘び寂び (わびさび) 」の「寂び」になります。
現代語では「さびる」といいます。
さぶし (さびし)
「さぶ」は「古くなる」という意味から、「衰える」「色褪せる」
さらに「意気消沈する」「しょんぼりする」という広い意味でつかわれるようになりました。
そして、「さぶし」は「物足りない」「楽しくない」という形容詞としてつかわれ、現在の「さびしい」という意味につかわれるようになりました。
わぶ (わびる)
もともと「さびしい」の意味では「侘ぶ (わぶ) 」から派生した「わびし」という形容詞もありました。
「わぶ」は「悲しくて嘆く」「困る」「さびしく思う」などの意味があります。
「謝罪する」の意味でつかわれる「詫ぶ (わぶ) 」もやまとことばではおなじ言葉です。
当時の漢字オタクが「謝罪する」ほうは「詫」の漢字をつかおうぜ、と決めたので、現代の先生や検定問題を作る人の格好の材料になっています。
遺憾に思う
ニュースで政治家がよくつかう言葉です。
この言葉はとても卑怯な言葉です。
あくまで「残念に思う」という意味で「謝罪」ではありません。
だから、他国の不埒な行動にもつかいます。
たとえば北朝鮮がミサイルを打ち上げたとか。
英語の「sorry」や「regret」もずるい言葉です。
「I’m sorry.」はかならずしも謝罪の言葉ではなく「残念に思う」「気の毒に思う」の意味でもつかわれます。
だから自分の責任や不手際などではなく、単に相手の不運をいたわるときにもつかいます。
ほんとに謝罪するときは「I apologize to you for ~」と言わなければなりません。
さぶし→さびし→さみし
もとをたどれば「さびし (い) 」が正しいということになりますが、「さみしい」でもべつにかまわないと思います。
言葉狩りをはじめると「さびしい」も「さびし」もまちがいで、「さぶし」でなければならん!となってしまいます。
b → m
煙
けぶる→けむる
けぶり→けむり
眠
ねぶる→ねむる
ねぶり→ねむり
禿
かぶろ→かむろ
頭に髪がないこと。ハゲ
子どもの髪型の1つ。
遊女の見習い。
瞑
つぶる→つむる
弔
とぶらう→とむらう
頭
つぶり→つむり
「おつむ」は女房詞 (にょうぼうことば) です。
しかつめらしい
しかつべらしい→しかつめらしい
鹿爪は当て字です。
被る (かぶる、こうむる) 、冠 (かんむり) 
これらはすべておなじ語源です。
かがふる
もとの言葉はなんと「かがふる」です!
かがふる→かうぶる→かぶる→かむる→かむり→かんむり
かうぶる (こうぶる) →こうむる
もう「今の若いもんは!」「言葉が乱れとる!」のレベルじゃないですね
冠 (かんむり) は頭に被るからということは説明するまでもありません。
冠はほかに「かがふり」「かうぶり (こうぶり) 」「かぶり」などの発音もあります。
「かう」は歴史的仮名遣いで「こう」と発音します。
厳密に言うと発音は「こー」です。
西日本には古語の名残りがあり、「会う」の過去を「会うた (おうた) 」と言ったりします。
発音は「おーた」ですね。
「こうむる」は「蒙る」の漢字もつかいます。
ただし常用漢字ではありません。
でも検定試験には出ます。
おかしいですね。
重複
「被害をこうむる」を漢字で書くと
「被害を被る」になってしまいます。
「害を被る」ことを「被害」というので重複になってしまいますが、容認されているようです。
気持ち悪いのでおじさんは「被害を受ける」をつかいます。
「頭痛が痛い」とか「沿線沿い」とか、もうニュースで当たり前になってしまったけど「通常通り」はやめてほしいです。
天下のNHKでは「平常通り」をつかってたんだけど「通常通り」をつかったりまたやめたり、揺れています。
「通常」で「いつもどおり」なので「通常通り」は「いつもどおりどおり」ですね
話し言葉では「通」を「ツウ」と「とおり」とべつの音で発音するので気がつきません。
テレビで字幕を出すときにはおなじ漢字がつかわれていることがわかるので放送する前に直しましょう。
「分類分け」なんて言葉も流れていましたが、テロップを作るときに「変だ」と思ってください。
それとも現在はテロップも自動なのでだれも気がつかないまま流れるんでしょうか?
鼻音化した理由
人間はとにかく怠け者で「できるだけ楽したい」生きものです。
閉じた唇から息を破裂させる「b」より、唇を閉じたまま鼻から息を漏らす「m」のほうが楽だからでしょう。
つかうエネルギーが少なくてすみます。
省エネです。
またこのような音の変化が受け入れられるのは、それをしても「言葉の混乱が起きない」ときにかぎられます。
ワ行が「ワ」だけ残してア行と同化したり、ヤ行がヤ、ユ、ヨしかなくて、yi, ye の音がア行と同化したのもそうです。
とくにハ行転呼音は言語オタクにはたまらない物語です。
m → b
寒
さむい→さぶい
こちらは「楽したい」に反して、鼻音 (m) が破裂音 (b) に変化したパターンですが、きっと鼻が詰まっていたんでしょう
寒いと体に力がはいるので破裂したのかもしれません
「さむっ」より「さぶっ」のほうがより寒い感じもします。
灯
ともす→とぼす
乏
ともし→とぼし (い)
思す (おぼす)
思ほす (おもをす) 。
思うの尊敬語から。
「~と思しき (おぼしき) 」という定型句でつかう。
さらに「思し召す (おぼしめす) 」は敬意が高くなる。
守
まもる→まぼる
もとは「守る (もる) 」
「目 (ま) 守る (もる) 」で「まもる」
文字どおり、「目を放さずじっと見つめる」の意。
もとの言葉の成り立ちがわからなくなるとさらに「見」をつけて「見守る (みまもる) 」というようになる。
「お守り (おもり) 」という言葉で残っている。
まほら
すぐれたよい所。
-ま
名詞を作る接尾語
まほらま→まほらば、まほろば
参考資料:
三省堂 新明解古語辞典 第二版
小学館 デジタル大辞泉


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