紛らす・紛らわす・紛らかす ~ 紛らわしい

magira 紛らわしい

「紛らす」「紛らわす」「紛らかす」「紛らわしい」

外国人の生徒が「混乱する」という言葉をよくつかうので「ややこしい」とか「紛らわしい (まぎらわしい) 」のほうが自然ですよ、という話から「紛らす (まぎらす) 」と「迷わす (まよわす) 」のちがいは何ですか?という話になり、これらの言葉の意味を調べるのを宿題にしました。

しかし、開けてびっくり玉手箱。
紛らす・紛らわす・紛らかすという3種類の言葉が辞書に載っているではありませんか!
これを一体、どう説明するのか?

紛ら (まぎら)

この言葉を理解するにはまず古語を知らねばなりませぬ (言葉遣いが時代劇のごとし😅)

紛ら (まぎら) [名詞]

「ごまかし」「まぎらわすこと」
現代ではつかいません。

さっちゃん
魔法少女マギラ🧙‍♀

紛らはす (まぎらわす) [他動詞]

「紛れるようにする」「紛れさせる」
「ごまかす」
「隠す」
「関心を他に移すようにする」

現代語でもつかう
「気を紛らわす」の意味です。

紛らはし (まぎらわし) [名]

「まぎらはす」の連用形→名詞
「まぎらわすこと」

「気晴らし (きばらし) 」似ていますね。
他のことに注意を向けさせて、一時的に悲しみ・心配事・悩みから気持ちをそらすことです。

紛らはし (まぎらわし) [形容詞]

上とまったくおなじ読みかたですが、こちらは形容詞です。
現代語では「まぎらわしい」と「い」がつきます。

上代は「まきらはし」と濁らなかったようです。

「眩しい (まぶしい) 」「目映い (まばゆい) 」
「他のことに紛れている」

ちなみに「まぶい」はヤンキーの言葉ではなく近世語 (江戸時代) の言葉です。
意味は「眩しいほど美しい」です😄

紛る (まぎる) [自動詞]

現代語では「紛れる (まぎれる) 」

「見分けにくくなる」
「入り交じる」
「隠れる」
「忙しくなる」
「心が他に移る」

以下は現代語とおなじです。

「人混みに紛れる」
「気が紛れる」

2段動詞

むかしは1段動詞のほかに2段動詞がありました。
例:起く、過ぐ、落つ、助く、投ぐ、捨つ

これらは現代語では「~いる」「~える」の音に置き換わっています。
ただ、「抜く」「抜ける」のように両方の形が残っているものもあります。
これが「混乱の元」です😅
母語話者の我々日本人でさえこのためにまちがえます。
まちがえていることにも気がつかない。

「まちがます」と「まちがます」と2通りの活用があるのも、前者は「まちが (五段活用) 」後者は「まちがえる (下一段活用) 」の活用だからです。

上2段動詞

「-u (う) 」→「-iru (いる) 」の音変化です。
例:起く→起きる、過ぐ→過ぎる

下2段動詞

「-u (う) 」→「-eru (える) 」の音変化です。
例:紛る→紛れる、助く→助ける

ちなみに「紛る」はこのように活用変化します。
未然:紛れ (ず)
連用:紛れ (たり)
終止:紛る
連体:紛るる (時)
已然:紛るれ (ば)
命令:紛れよ

これは奈良時代から鎌倉、室町、江戸時代の古い形で、途中でべつの活用形も現れ、江戸後期になると現代に近い活用に変わっていきます。

東言葉 (あずまことば)

まあ平たく言えば「東日本の方言」です。
今でこそ東京の山の手方言が共通語の元になっていますが、もともとは上方 (京都、その名のとおりむかしの日本の都) の言葉が日本を代表する言葉でした。

むかしから東西では言葉がちがい、江戸が都になったことで、言葉も東言葉、ひいては東京方言が幅を利かせるようになったんです。

類義語

紛ふ (まがふ)

「目 (ま) 交 (か) ふ」で目がちらちらするほど入り乱れるという意味です。

[自動詞]

「入り乱れる」
「 (AとBが) 区別がつかない」
「まちがえる」

[他動詞]

「紛れてわからなくなる」
「見違える」
「聞き違える」

現代仮名遣いでは「まがう」ですが、日常会話でつかうことはないので古語とおなじように「まごー」と発音するのがふつうです。
「見紛ふ (みまがふ/みまごー) 」も「見まちがえる」という意味です。

惑ふ (まどふ)

「判断がつかなくてうろたえる」

迷ふ (まよふ)

「糸が乱れる」がもとの意味。

「心がいろいろに乱れる」
音が「惑う (まどう) 」と似ているので
「道や方向がわからなくなる」
「判断・選択を決めることができない」
というような意味で使うようになりました。

使役→他動詞化

「惑う」の使役が「惑わ/惑わせる
「迷う」の使役が「迷わ/迷わせる

それぞれ他動詞として定着して辞書にも載っています。
デジタル大辞泉には「~せる」の形は載っていません。

形の変化についてはこの後にも書きます。

漢字はつかいわけているけど、「迷惑」というニコイチの言葉があります😅

さて、ここまで古語について説明してきました。
現代語ではあと2つあります。

紛らす (まぎらす) 、紛らかす (まぎらかす)

この2つは古語辞典にはありません。
ということはむかしは使われていなかったということ。

現代の国語辞典には2つとも載っています。
意味はもちろんおなじで、デジタル大辞泉では「紛らかす」を引くと、
「紛らす」に同じ、と書いてあります😄
「紛らわす」も「紛らす」に同じと書いてあります。
この辞書では「紛らす」を代表者にしていますね。

使役→他動詞化

たとえば「書く (かく) 」の使役の古形は「書かす (かか) -asu」で、現代語では「書かせる (かかせる) -aseru」になります。

なので、
「紛ら」には「紛らせる
「紛らわ」には「紛らわせる
という形もあります。

もう訳わかりません😂

紛らかす

おじさんはこの言葉は聞いたことがありませんでした。
でも、辞書には載っています。

「かす」は使役・他動詞の語尾

「笑わす (笑わせる) 」を「笑 (わ) かす」といったり、
「脅す (おどす) 」と「脅かす (おどかす) 」が共在していたり、
おなじ漢字で「脅かす (おびやかす) 」は「怯える」の使役・他動詞化であったり、
「散らかす」といったりするように、
「かす」には使役・他動詞の意味があります。

それにならってできた言葉ではないでしょうか?
じっさい「紛らかす」をつかう人はとても少ないようです。

したがって「紛らかせる」という言葉はあるかどうかもわかりません。

紛れさせる

さらに「紛れる (自動詞) 」を現代の使役の形にすると「紛れさせる」もあります。

みなさんはどれをつかいますか?

むすび

古語辞典には「紛らはす (まぎらわす) 」しか載っていないのでもともとは「紛らわす」だったようです。

「紛らす」と「紛らかす」は後世、「紛らわす」が変化してできた言葉。
そして現代では「紛らわせる」が一般的な形と思われます。

言葉は生きている

言葉は生きているのでつねに変化しつづけます。
「言葉の乱れ」というなかれ。

あなたがたまたま生まれた時代の義務教育を受けて、それが正しいと思っても、すこし前に遡れば「それはまちがい」というものは山ほどあります。

言葉はあくまでコミュニケーションの道具であり、ガラスケースに入れて飾っておくものではありません。
たくさん使う言葉ほど擦り切れていき、形を変えていきます。

ただ心配しなくても、あまりにも一部の仲間でしか使わないような言葉や、役に立たない、面白味のない言葉はすぐ消えていきます。

参考:デジタル大辞泉 小学館
新明解古語辞典 第2版 三省堂

さっちゃん
「おむすび」か「おにぎり」かそれが問題だ🍙
ひげおじさん
そこかい!

わたしは日本語教師をしています

プロフィール・レッスン予約はこちら。
表示名はToshiです。

https://www.italki.com/teacher/8455009/japanese

さっちゃん
わたしはさっちゃんです!watashi wa Sacchan desu!
ひげおじさん
わしはひげおじさんじゃ!washi wa hige-ojisan ja!

おじさんオススメの記事

飛行機はなぜ飛ぶか? ~「迎え角」と「コアンダ効果」

注目の記事

「右・左・右」はまちがい! 人は左から来た車に はねられる! 当たり前です!

話題の記事

シャンプーが水っぽくなるのはなぜ? (図解)

人気の記事

相手がえらんだカード (トランプ) を当てる! (カードマジック15枚)

<Sponsored Link>




<Sponsored Link>




magira 紛らわしい

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です